家をどうするか

実家の土地の相続税が8割減る「小規模宅地等の特例」|別居の子は「家なき子」の6要件。10か月の申告期限まで売らない

杉野 一樹

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親が住んでいた実家の土地には、相続税の評価を大きく下げる特例があります。小規模宅地等の特例です。330平方メートルまでの部分は、評価額が8割減ります。ただ、使える人と使えない人の線引きがはっきりしていて、親と別居していた子には「家なき子」と呼ばれる6つの要件があります。しかも、この特例は申告しないと使えません。この記事は、国税庁の資料から、実家の土地に特例が使えるか、使うなら何に気をつけるかを整理します。

この記事で分かること
  • 親が住んでいた土地は、330平方メートルまで評価額が80%減ります。配偶者は要件なし、同居の子は申告期限まで住み続けて持ち続ければ使えます
  • 別居の子は「家なき子」の6要件をすべて満たす必要があります。親に配偶者がいる、同居の相続人がいる、この3年に持ち家に住んだ、のどれかなら使えません
  • 特例は申告して初めて使えます。税額がゼロになっても申告が必要で、10か月の申告期限より前に売ると使えません
実家じまいの5段階。お墓、仏壇・位牌、片付け、家をどうするか、解体。この記事は家をどうするか
この記事は④家をどうするかの、相続税の話です。

実家を売ったときの所得税の話は相続した実家を売ると税金はいくら?3,000万円控除の条件と期限に、毎年の固定資産税は親が亡くなった後の実家の固定資産税|払うのは相続人。登記が3か月で終わらないなら「現所有者申告」を出すに書きました。この記事は相続税の話です。

相続税がかかるのは約1割。でも申告は税額ゼロでも出ている

国税庁の「令和6年分 相続税の申告事績の概要」によると、令和6年に亡くなった人は160万5,378人。そのうち相続税額のある申告が出されたのは16万6,730人で、課税割合は10.4%でした。

相続税の基礎控除は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」です(国税庁 No.4152)。子が2人なら4,200万円。遺産がこれを下回れば、相続税はかかりません。葬儀費用のうち通夜や火葬などの費用は、遺産から差し引けます(葬儀費用は誰が払い、どこまで引けるのか|故人の預金・相続税・相続放棄)。

見落としやすいのは、同じ資料にある別の数字です。相続税額のない申告書も、3万9,755人分出ています。税額がゼロなのに、なぜ申告するのか。相続税の特例の中には、申告して初めて使えるものがあります。この記事の特例も、その一つです。

相続財産の中で、土地は大きな割合を占めます。同じ資料では、令和6年分の相続財産24兆5,415億円のうち土地は7兆4,074億円で、約3割でした。

実家の土地は、330平方メートルまで評価額が8割減る

国税庁のタックスアンサーNo.4124は、小規模宅地等の特例をこう説明しています。

亡くなった人が住んでいた土地(特定居住用宅地等)は、限度面積330平方メートルまで、相続税の課税価格に入れる額を80%減らします。330平方メートルを超える部分は減りません。

仮の例で計算してみます。子2人が相続し、実家の土地が200平方メートル、相続税の評価額が4,000万円、預金が1,500万円だったとします。

  • 特例なし… 4,000万円+1,500万円=5,500万円。基礎控除4,200万円を1,300万円上回るので、相続税がかかります
  • 特例あり… 土地は4,000万円の8割減で800万円。800万円+1,500万円=2,300万円で、基礎控除を下回ります

この例では、特例を使うと相続税がゼロになります。ただし、ゼロになっても申告は必要です。No.4124は、特例を受けるには相続税の申告書に特例を受ける旨を書き、計算の明細書や遺産分割協議書の写しなどを添付する必要があるとしています。

注意:相続税の評価額は、固定資産税の評価額や売れる値段とは別のものです。実家の土地がいくらになるかは、税務署か税理士に確かめてください。

使いやすいのは、配偶者と同居の子

特例が使えるかどうかは、土地を相続する人で決まります。なお、生前に相続時精算課税で贈与した土地には、この特例は使えません(実家を生前に子の名義にするといくらかかるか|贈与は登録免許税2%と不動産取得税。相続なら0.4%で取得税なし)。No.4124の表は、取得者を3つに分けています。

  • 配偶者… 取得者ごとの要件はありません
  • 亡くなった親と同じ建物に住んでいた親族… 亡くなる直前から申告期限まで住み続け、その土地を申告期限まで持ち続けること
  • それ以外の親族(別居の子など)… 次の節の6つの要件をすべて満たすこと

父が亡くなって母が実家を相続するなら、要件なしで使えます。同居していた子が相続する場合も、申告期限まで住み続けて手放さなければ使えます。

別居していた子が相続するときだけ、ハードルが上がります。

別居の子は「家なき子」の6つの要件をすべて満たす

別居の子が使うための要件は、No.4124に6つ並んでいます。一般に「家なき子特例」と呼ばれています。

  • 日本国籍を持たずに海外に住んでいる人などでないこと
  • 亡くなった親に配偶者がいないこと
  • 亡くなる直前に、親の家に住んでいた相続人がいないこと
  • 相続開始前3年以内に、国内にある自分・自分の配偶者・自分の3親等内の親族・自分と特別な関係のある法人が持つ家に住んだことがないこと
  • 相続開始のときに住んでいる家を、過去に一度も持ったことがないこと
  • その土地を、相続開始から申告期限まで持ち続けること

つまり、持ち家に住んでいる子は使えません。賃貸に住んでいても、その家が配偶者や親族の持ち家なら使えません。父が亡くなったときに母がいれば、別居の子は使えず、母が相続する形になります。

親と別居の子が実家の土地に小規模宅地等の特例を使えるかを判断する5つの質問のチャート
5つの質問のどこかで「はい」なら、別居の子の家なき子特例は使えません。

施設に入っていた親でも、使えることがある

親が最後は老人ホームにいて、実家は空いていた。この場合でも、特例が使えることがあります。

No.4124の注記は、要介護認定や要支援認定を受けていた親が、特別養護老人ホーム・有料老人ホーム・認知症のグループホーム・介護老人保健施設・介護医療院・サービス付き高齢者向け住宅などに入っていた場合、その前に住んでいた家を「被相続人の居住の用」に含めるとしています。

ただし、親が施設に移ったあとに実家を人に貸したり、事業に使ったりすると、この扱いから外れます。施設に入った親の家を貸すかどうか迷っているなら、この点も考えに入れてください。貸す場合の話は実家を貸すなら定期借家で|借り手を募集した空き家のうち、1年あまりで貸せたのは約5軒に1軒に書きました。

売るのは、10か月の申告期限の後に

家なき子の6つ目の要件は、申告期限までその土地を持ち続けることです。相続税の申告期限は、亡くなったことを知った日の翌日から10か月です(No.4208)。

実家を早く売りたい気持ちは分かります。でも、別居の子が特例を使うなら、売るのは申告期限の後にしてください。期限前に売ると、特例は使えません。

一方、空き家を売ったときの所得税の3,000万円控除は、「相続から3年を経過する日の属する年の12月31日まで」に売れば使えます(No.3306)。10か月待っても、こちらの期限には十分間に合います。

国税庁のNo.3306が、3,000万円控除と一緒に使えない特例として挙げているのは、相続財産を譲渡した場合の取得費の特例や収用等の特別控除などで、相続税の小規模宅地等の特例は挙がっていません。両方を考えるなら、順番は「10か月の申告」→「売却」です。親が亡くなってからの期限の一覧は実家じまいは何から始める?5つの段階と、かかるお金の全体像にまとめました。

小規模宅地等の特例と売る時期の期限のタイムライン。10か月の申告期限、相続から3年の売却期限、申告期限から3年の分割期限
相続税の申告期限(10か月)のあとに売っても、3,000万円控除の期限には間に合います。
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売るのは申告期限の後でも、相場は先に知っておけます。評価額と売れる値段の差をつかんでおくと、誰が相続するかの話し合いもしやすくなります。

分け方が決まらないと、特例は使えない

もう一つの落とし穴が、遺産分割です。

No.4124は、特例の対象になりうる土地を相続する人が2人以上いる場合、特例を使う土地の選び方に全員が同意し、原則として申告期限までに分割されていることが必要だとしています。

No.4208によると、分割がまとまらなくても、申告と納税は10か月以内にしなければなりません。その申告では、小規模宅地等の特例も配偶者の税額軽減も使えません。あとで分割がまとまれば、修正申告や更正の請求で特例を使えますが、原則として申告期限から3年以内に分割された場合に限られます。更正の請求は、分割を知った日の翌日から4か月以内です。

兄弟の話し合いが長引きそうなら、特例を使うためにも、10か月より前に税理士に相談してください。家庭裁判所の調停や審判では、4割が1年を超えています(実家しかない相続ほど、分け方で止まる|家庭裁判所で決まった遺産分割の35%は遺産1,000万円以下。7割で代償金)。

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実家の土地の相続税のこと、調べたので共有します。

  • 親が住んでいた土地は「小規模宅地等の特例」で、330平方メートルまで評価額が8割減ります
  • 配偶者が相続するなら要件なし。同居していた子は、申告期限まで住み続けて持ち続ければ使えます
  • 別居の子が使うには「家なき子」の6つの要件が全部要ります。この3年に自分や配偶者、親族の持ち家に住んでいたら使えません
  • 特例は申告しないと使えません。税金がゼロになっても申告が必要です
  • 別居の子が使うなら、売るのは10か月の申告期限の後です
  • 誰が実家の土地を相続するか、一度話せますか

よくある質問

よくある質問①

小規模宅地等の特例で、どれくらい減りますか

親が住んでいた土地なら、330平方メートルまで評価額が80%減ります。国税庁のNo.4124が定める特定居住用宅地等の扱いです。評価額4,000万円の土地が200平方メートルなら、800万円として計算します。330平方メートルを超える部分は減りません。相続税の評価額は、固定資産税の評価額や売れる値段とは別なので、税務署や税理士に確かめてください。

よくある質問②

親と別居していた子でも使えますか

「家なき子」の6つの要件をすべて満たせば使えます。親に配偶者がいないこと、亡くなる直前に親の家に住んでいた相続人がいないこと、相続開始前3年以内に自分・配偶者・3親等内の親族などの持ち家に住んでいないこと、いま住んでいる家を過去に持ったことがないこと、申告期限まで土地を持ち続けることなどです(No.4124)。

よくある質問③

親が老人ホームに入っていても使えますか

要介護認定などを受けて入居していたなら、使えることがあります。No.4124は、要介護・要支援の認定を受けていた親が特別養護老人ホームや有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅などに入っていた場合、その前に住んでいた家を親の住まいとして扱うとしています。ただし、施設に移ったあとに実家を人に貸したり事業に使ったりすると外れます。

よくある質問④

相続税がゼロになるなら、申告しなくていいですか

特例を使うなら、申告が必要です。No.4124は、特例を受けるには相続税の申告書に特例を受ける旨を書き、計算の明細書や遺産分割協議書の写しなどを添付する必要があるとしています。国税庁の令和6年分の資料では、相続税額のない申告書が3万9,755人分出されています。期限は、亡くなったことを知った日の翌日から10か月です。

よくある質問⑤

実家をすぐ売っても特例は使えますか

別居の子(家なき子)や同居の子は、申告期限まで持ち続けることが要件です。10か月の申告期限より前に売ると、特例は使えません。空き家を売ったときの3,000万円控除は相続から3年を経過する日の属する年の12月31日まで使えるので、売るのを申告期限の後にしても間に合います。配偶者には、この保有の要件はありません。

よくある質問⑥

遺産分割がまとまらないと、どうなりますか

期限内の申告では特例が使えません。No.4208は、分割がまとまらなくても10か月以内に申告と納税をしなければならず、その申告では小規模宅地等の特例が適用できないとしています。原則として申告期限から3年以内に分割されれば、修正申告や更正の請求で特例を使えます。更正の請求は、分割を知った日の翌日から4か月以内です。

出典

  • 国税庁 タックスアンサー No.4124「相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)」(令和8年4月1日現在)
  • 国税庁 タックスアンサー No.4208「相続財産が分割されていないときの申告」(令和8年4月1日現在)
  • 国税庁 タックスアンサー No.4152「相続税の計算」(令和8年4月1日現在)
  • 国税庁 タックスアンサー No.3306「被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」(令和8年4月1日現在)
  • 国税庁「令和6年分 相続税の申告事績の概要」(令和7年12月)
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