実家を貸すなら定期借家で|借り手を募集した空き家のうち、1年あまりで貸せたのは約5軒に1軒
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実家を売るのは気が進まない。かといって空き家のまま置くのも気になる。そこで出てくるのが「貸す」という選択です。家賃が入り、人が住むので傷みも進みにくい。ただ、貸し方を間違えると、実家が「自分の都合では戻ってこない家」になります。この記事は、国土交通省の調査と借地借家法の条文から、貸せる確率と、貸すなら選ぶべき契約の形を整理します。
- 借り手を募集していた空き家のうち、1年あまりで貸せたのは約5軒に1軒でした。売りに出していた空き家(約4軒に1軒が売れた)より少し低い数字です
- 普通の借家契約で貸すと、貸主から更新を断るには「正当の事由」が要ります(借地借家法第28条)。売りたくなっても、すぐには戻りません
- 将来売る・住む可能性があるなら、定期借家にしてください。ただし契約前に書面を渡して説明しないと、定期借家になりません(第38条第5項)

売る場合は相続した実家の売り方|売りに出した空き家の7割は1年後も空き家のまま。仲介と買取を手取りで比べるに、そのまま持つ場合の管理は相続した空き家を放置すると|「管理不全空家」の判断基準と、年に何をすればいいかに書きました。
貸しに出しても、1年あまりで貸せたのは約5軒に1軒
国土交通省の「令和6年空き家所有者実態調査」は、同じ空き家を1年あまり追いかけています。2023年10月1日の時点で空き家だった住宅が、2024年12月1日までにどうなったかを、空き家の種類ごとに聞いたものです。
空き家でなくなった割合は、次のとおりでした。
- 使用目的のない空き家… 14.8%(85.2%は空き家のまま)
- 別荘・二次的住宅… 15.4%
- 売りに出していた空き家(売却用)… 31.4%
- 貸しに出していた空き家(貸家用)… 33.1%(66.9%は空き家のまま)
そして、空き家でなくなった理由も種類別に出ています。貸家用の空き家で空き家でなくなったもののうち、「貸した」は63.2%でした。
掛け合わせると、借り手を募集していた空き家のうち、1年あまりで実際に貸せたのは約21%、5軒に1軒ほどです。売却用の空き家で同じ計算をすると約24%なので、貸すほうが売るより少し低いという結果になります。借り手探しには市区町村の空き家バンクも使えますが、買う人・借りる人を移住者に限る自治体もあります(空き家バンクで実家は売れるか|空き家を解消した世帯で登録していたのは3.3%。全国版の成約は累計約2万7,000件)。

「貸す」を選ぶ人自体も少数です。同じ調査で、調査時点でまだ空き家だった住宅の今後5年ほどの利用意向を聞くと、「賃貸する」は5.1%でした。「売却する」19.5%、「空き家として所有しておく」31.7%と比べて、かなり少ない数字です。
貸せない理由の上位は「住宅の傷み」と「家財の処理」
なぜ貸せないのか。今後5年ほどのうちに賃貸または売却する意向の世帯に、課題を聞いた結果があります(複数回答)。
- 住宅の傷み… 43.3%
- 借り手・買い手の少なさ… 40.3%
- 家財などの処理… 37.4%
- 設備や建具の古さ… 34.0%
- リフォーム費用… 21.4%
- 地域の高齢化や人口減少… 21.4%
- どうすればよいか分からない… 21.4%
- 住宅の耐震性… 16.0%
上位のうち「住宅の傷み」と「家財などの処理」は、所有者側で手を打てる課題です。逆に言えば、家財が残ったまま、傷んだままでは、借り手はつきにくい。
実家の相続空き家は、古い家が多い。同じ調査では、相続で取得した空き家の73.2%が1980年以前の建築で、傷みのないものは28.2%にとどまっていました(相続した実家の売り方|売りに出した空き家の7割は1年後も空き家のまま。仲介と買取を手取りで比べる)。貸す前に、片付けと修繕にいくらかかるかを先に見積もってください。家財の片付けの費用と補助は家財処分の費用に補助金は出る?|片付けたあとでは受け取れない。空き家の補助(広島県内10市町・東京都)と生活保護の家財処分料にまとめています。
注意:借り手が見つからなかったときの対応も、調査に出ています。「家賃や価格を引き下げる」が45.5%、「自治体・専門家などに相談する」が42.6%、「賃貸・売却をあきらめる」が20.4%。貸すと決める前に、家賃を下げても続けられるかを考えておいてください。
普通の借家契約だと、貸主からは終われない
ここが、この記事でいちばん伝えたいところです。
何も考えずに「普通の賃貸契約」で貸すと、実家が戻ってこなくなることがあります。
借地借家法第28条は、建物の賃貸人(貸主)が更新を断ったり解約を申し入れたりするには、「正当の事由があると認められる場合でなければ、することができない」と定めています。正当の事由があるかどうかは、貸主と借主のそれぞれが建物を必要とする事情、これまでの経過、建物の利用状況や現況、立退料などの申出を考え合わせて判断されます。
「実家を売りたくなったから出ていってほしい」は、それだけでは正当の事由として認められにくい。借主にとっては生活の本拠だからです。
つまり、普通の借家契約で貸すと、
- 売りたくなっても、借主が住み続けるかぎり空き家として売れない
- 家族が住みたくなっても、すぐには戻れない
- 立退料を払って出てもらう交渉になることがある
相続人が複数いる実家で、この形になると、次の話し合いがさらに難しくなります。
将来売る・住むなら、定期借家にする
そのための契約の形が、定期建物賃貸借(定期借家)です。
借地借家法第38条第1項は、期間の定めがある建物の賃貸借で、公正証書などの書面によって契約をするときに限り、「契約の更新がないこととする旨を定めることができる」としています。国土交通省は、定期借家を「契約で定めた期間が満了することにより、更新されることなく、確定的に賃貸借契約が終了する」制度だと説明しています。
実家を貸すなら、この形が向いています。
- 期間が来れば確定的に終わる… 売る・住む・取り壊すといった次の段取りが組める
- 貸主と借主が合意すれば、再契約もできる… 借主と関係が良ければ続けられる
- 国土交通省が「定期賃貸住宅標準契約書」のひな形を公開している

定期借家にするための3つの手順
定期借家は、形式を守らないと普通の借家契約になります。条文に書かれている手順です。
- 期間を定めて、書面(公正証書でなくてもよい)で契約する(第38条第1項)。内容を記録した電磁的記録による契約も書面とみなされます(第2項)
- 契約の前に、契約書とは別に「更新がなく、期間の満了で終わる」ことを書いた書面を渡して説明する(第3項)。借主の承諾があれば電磁的方法でも提供できます(第4項)
- 期間が1年以上なら、満了の1年前から6か月前までの間に、終了することを通知する(第6項)
2番がいちばん抜けやすい。第38条第5項は、貸主がこの説明をしなかったときは「契約の更新がないこととする旨の定めは、無効とする」と定めています。契約書に「定期借家」と書いてあっても、事前の書面説明がなければ、更新のない定めは無効になります。そうなると、結果として普通の借家契約と同じ扱いになります。
3番を忘れた場合も、そのままでは終了を借主に主張できません。第6項ただし書きで、通知期間を過ぎてから通知した場合は、その通知の日から6か月を過ぎれば終了を主張できるとされています。期間満了の日に終わらせたいなら、カレンダーに入れておいてください。
注意:借主の側からの途中解約もあります。第38条第7項は、居住用で床面積200平方メートル未満の建物なら、借主が転勤・療養・親族の介護などやむを得ない事情で住み続けられなくなったとき、解約を申し入れて1か月で終わらせられるとしています。貸主から見ると、予定より早く空き家に戻ることがある、ということです。
貸す前に、確かめておくこと
契約の形以外にも、先に片付けておくことがあります。
- 名義… 親の名義のままでは、貸主としての契約が組みにくい。相続登記は2027年3月31日が期限の不動産もあります(相続登記の期限は2027年3月31日|過料が来るのは「一部だけ登記した」とき。親の不動産を洗い出す証明書が始まった)
- 相続人の合意… 共有名義の家を貸すには、他の共有者との調整が要ります。貸したあとで「売りたい」と言い出す人がいると、定期借家でも期間満了まで待つことになります
- 親の判断能力… 親が存命で名義人の場合、親が契約の意味を理解できないと、賃貸借契約も結べません。後見が付いた居住用不動産は、賃貸借契約の締結にも家庭裁判所の許可が要ります(親が認知症だと実家は売れないのか|成年後見の申立ては年4万3,159件。売却が終わっても後見は続く)
- 家財と仏壇… 家財が残ったままでは借り手がつきにくい。仏壇の扱いは先に決めてください(仏壇の処分はどうする?自治体に出せます。順番を間違えないために)
- 3,000万円控除との関係… 相続した空き家を売るときの3,000万円控除は、国税庁が「相続の時から譲渡の時まで事業の用、貸付けの用または居住の用に供されていたことがないこと」を要件に挙げています。貸したあとに売ると、控除が使えなくなることがあります(相続した実家を売ると税金はいくら?3,000万円控除の条件と期限)
最後の点は見落としやすい。貸して家賃を得たあとで売ると、税金の計算が変わります。貸す前に、将来売る可能性があるなら税理士に確かめてください。
共有名義なら、3年以内の賃貸は持分の過半数で決められます(共有の実家は壊すのに全員の同意|貸すのは過半数、直すのは1人。相続から10年で使える手が増える)。
実家を貸すかどうか、調べたので共有します。
- 国の調査では、借り手を募集していた空き家のうち、1年あまりで実際に貸せたのは約5軒に1軒でした。3軒に2軒は空き家のままです
- 貸せない理由の上位は「住宅の傷み」と「家財の処理」。貸す前に片付けと修繕の費用がかかります
- 普通の賃貸契約で貸すと、こちらから「出てほしい」と言うには正当な理由が要ります。売りたくなっても、すぐには戻りません
- 将来売る・住む可能性があるなら「定期借家」で。ただし契約の前に書面を渡して説明しないと、普通の賃貸と同じになります
- 貸したあとに売ると、相続した空き家の3,000万円控除が使えなくなることがあります
- 貸すか売るか、一度話せますか
よくある質問
国の調査では、1年あまりで約5軒に1軒でした。国土交通省の令和6年空き家所有者実態調査で、借り手を募集していた空き家のうち、2023年10月から2024年12月までに空き家でなくなったのは33.1%、そのうち「貸した」は63.2%です。掛け合わせると約21%。売りに出していた空き家で売れたのは約24%なので、貸すほうが少し低い数字です。家賃を下げる、自治体や専門家に相談する、という対応が多く取られています。
終わらせ方が違います。普通の借家契約では、貸主が更新を断るには借地借家法第28条の「正当の事由」が必要で、売りたい・住みたいという事情だけでは認められにくい。定期借家は、第38条に基づき、契約で定めた期間が満了すると更新されずに確定的に終わります。貸主と借主が合意すれば再契約もできます。将来売る・住む可能性がある実家なら、定期借家が向いています。
3つです。(1)期間を定めて書面で契約する、(2)契約の前に、契約書とは別に「更新がなく期間満了で終わる」ことを書いた書面を渡して説明する、(3)期間が1年以上なら、満了の1年前から6か月前までに終了を通知する。(2)を怠ると、第38条第5項により「契約の更新がないこととする旨の定めは、無効」になります。契約書に定期借家と書いただけでは足りません。国土交通省が標準契約書のひな形を公開しています。
借主が住んだまま売ることはできますが、空き家として売るなら契約が終わるのを待つことになります。普通の借家契約なら、貸主から終わらせるには正当の事由が要ります。定期借家なら期間満了で終わります。もう一つ、税金に注意してください。相続した空き家を売るときの3,000万円控除は、相続から売るまでの間に貸付けに使っていないことなどが条件で、貸したあとに売ると使えなくなることがあります。
あります。借地借家法第38条第7項は、居住用で床面積200平方メートル未満の建物の定期借家で、借主が転勤・療養・親族の介護などやむを得ない事情で住み続けられなくなったとき、解約を申し入れれば1か月で終わるとしています。この規定に反する借主に不利な特約は無効です(第8項)。貸主から見ると、予定より早く空き家に戻ることがある、ということです。
難しいと考えてください。賃貸・売却の課題を聞いた国の調査で、「家財などの処理」は37.4%で3番目に多い課題でした。1番目は「住宅の傷み」43.3%です。家財が残ったまま、傷んだままでは借り手はつきにくい。仏壇や位牌の扱いも含めて、貸す前に片付けと修繕の費用を見積もってください。その金額と、売った場合の手取りを並べると、貸すか売るかが決めやすくなります。
出典
- 国土交通省「令和6年空き家所有者実態調査」調査結果(令和7年8月)
- 借地借家法(平成3年法律第90号)第28条、第38条
- 国土交通省「定期建物賃貸借 Q&A」「『定期賃貸住宅標準契約書』について」
- 国税庁 タックスアンサー No.3306「被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」

