借金があっても実家を残せる「限定承認」|放棄32万件に対し637件。相続人全員の同意と、実家を買い取るお金が要る
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親に借金があるかもしれない。でも、実家は手放したくない。相続放棄をすると、実家も含めて何も受け継げません。その間にあるのが「限定承認」で、相続で得た財産の範囲でだけ借金を払う方法です。ただ、使われている件数はごくわずかです。この記事は、司法統計と民法の条文、裁判所の案内から、限定承認で実家を残す道と、その重さを整理します。
- 2025年に家庭裁判所が受けた限定承認の申述は637件でした。相続放棄の32万3,524件の約500分の1です
- 限定承認は、相続人全員が共同で、3か月以内に財産目録を付けて申述します。財産は原則として競売にかけますが、鑑定人の評価額を払えば実家を手元に残せます
- 限定承認をすると、親が実家を時価で売ったものとみなされ、値上がり益があれば所得税がかかります

相続放棄をしたあと実家がどうなるかは相続放棄したら実家はどうなるか|放棄の申述は年32万3,524件。住んでいた人は、引き渡すまで管理が残るに、借金の調べ方は親の借金を調べる方法|信用情報3機関の開示は合計6,080円。ただし「載っていない」は「借金がない」ではないに書きました。
相続の選び方は3つ
裁判所の案内は、相続が始まったときに相続人が選べるものを3つに分けています。
- 単純承認… 土地の所有権などの権利も、借金などの義務も、すべて受け継ぐ
- 相続放棄… 権利も義務も一切受け継がない
- 限定承認… 債務がどの程度あるか分からず、財産が残る可能性もある場合などに、相続で得た財産の限度で債務を受け継ぐ
民法922条は、限定承認を「相続によって得た財産の限度においてのみ被相続人の債務及び遺贈を弁済すべきことを留保して」相続を承認することとしています。借金が財産より多くても、財産の範囲を超えて自分のお金で払う必要はありません。

限定承認は、放棄の約500分の1しか使われていない
最高裁判所の「令和7年 司法統計年報 家事編」第3表によると、2025年に家庭裁判所が新しく受けた申述は次のとおりでした。
- 相続の放棄… 32万3,524件
- 限定承認… 637件
限定承認は、放棄の約500分の1です。借金と財産のどちらが多いか分からない相続は珍しくないはずなのに、ほとんどの人が放棄を選んでいます。理由は、手続きの重さにあります。
手続きは、全員で、3か月以内に
民法と裁判所の案内から、限定承認の手続きをまとめます。
- 相続人全員が共同して申述する(民法923条)。1人でも反対すれば使えない
- 自分のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に、財産目録を作って家庭裁判所に出す(民法924条)
- 申述先は、亡くなった人の最後の住所地の家庭裁判所。費用は収入印紙800円と郵便切手
- 限定承認のあと5日以内に、すべての債権者に向けて、2か月以上の期間を定めて請求の申出をするよう官報で公告する(民法927条)
- 相続人が複数いるときは、家庭裁判所が相続人の中から相続財産の清算人を選ぶ(民法936条)
放棄は1人でも自分だけでできますが、限定承認は全員がそろわないとできません。兄弟のうち1人でも反対したり、連絡が取れなかったりすると、進められません。

実家を残すには、鑑定人の評価額を払う
限定承認で借金を払うとき、財産を売る必要があれば、民法932条は原則として競売にかけなければならないとしています。
ただし同じ条文のただし書きで、家庭裁判所が選任した鑑定人の評価に従って、その財産の価額を払えば、競売を止めることができます。実家を手元に残したいなら、この道を使います。
つまり、限定承認で実家を残すには、実家の評価額に当たるお金を用意する必要があります。借金を実家の価値の分だけ払い、そのうえで実家を受け継ぐ形です。
実家を残せるかどうかは、評価額を払うお金を用意できるかで決まります。用意できなければ、実家は競売にかかり、残ったお金で債権者に払うことになります。
限定承認を考えるなら、実家がいくらで売れるかの目安が要ります。鑑定の前に相場を知っておくと、評価額を払えるかの見通しが立てやすくなります。
税金の注意:親が実家を売ったことになる
所得税法59条は、限定承認に係る相続で土地や建物が移ったとき、その時の価額で譲渡があったものとみなすとしています。
限定承認をすると、亡くなった親が実家を時価で売ったものとして扱われます。親が昔安く買った土地で値上がり益があれば、譲渡所得として所得税の対象になります。この税金は、亡くなった親の所得税として、相続人が準確定申告で精算することになります(親の準確定申告は要るか|年金だけなら多くは不要。ただし医療費が多かった年は戻ることがあり、戻ったお金は相続財産になる)。
単純承認や相続放棄では、この扱いはありません。限定承認を選ぶ前に、税理士に税額の見込みを確かめてください。
3か月で決められないときは、期間を延ばす
借金がいくらあるか分からないまま3か月が迫ることもあります。民法915条は、利害関係人の請求によって、家庭裁判所がこの期間を伸長できるとしています。限定承認か放棄かを決めきれないなら、期限が来る前に伸長を申し立ててください。
期限を過ぎて何もしないと、民法921条により単純承認をしたものとみなされ、借金もすべて受け継ぐことになります。
借金があっても実家を残す方法(限定承認)のこと、調べたので共有します。
- 相続で受け取った財産の範囲でだけ借金を払う「限定承認」という方法があります
- ただ、相続人全員で一緒に申し立てる必要があり、1人でも反対すると使えません。期限は3か月です
- 実家を残すには、裁判所が選ぶ鑑定人の評価額を払う必要があります
- 親が実家を時価で売ったことになり、値上がり益があると所得税がかかるそうです
- 借金の額が分からないうちは、まず全員で調べ方と期限を相談できますか
よくある質問
放棄は何も受け継がず、限定承認は財産の範囲で借金を払って受け継ぎます。放棄は1人ずつできますが、限定承認は相続人全員が共同で申述する必要があります(民法923条)。2025年の申述は、放棄の32万3,524件に対し、限定承認は637件でした。
鑑定人の評価額を払えば残せます。民法932条は、借金を払うために財産を売るときは原則として競売にかけるとしつつ、家庭裁判所が選任した鑑定人の評価に従って価額を払えば競売を止められるとしています。評価額に当たるお金を用意できるかが分かれ目です。
申述そのものは収入印紙800円と郵便切手です。裁判所の案内による費用です。このほか、官報での公告の費用や、実家を残すなら鑑定の費用がかかります。相続人が複数いるときは、家庭裁判所が相続人の中から相続財産の清算人を選びます。手続きが多いので、弁護士や司法書士に頼むことも考えてください。
実家に値上がり益があれば、所得税がかかることがあります。所得税法59条により、限定承認に係る相続では、亡くなった親が実家を時価で譲渡したものとみなされます。その譲渡所得は親の所得税として、相続人が準確定申告で精算します。選ぶ前に税理士に見込みを確かめてください。
放棄した人は初めから相続人でなかったことになるので、残った相続人全員で申述します。民法939条により、放棄した人は相続人から外れます。限定承認は残った相続人の全員が共同でする必要があり、1人でも反対すれば使えません。
出典
- 最高裁判所「令和7年 司法統計年報 3 家事編」第3表(令和8年6月)
- 裁判所「相続の限定承認の申述」
- 民法(915条、921条、922条、923条、924条、927条、932条、936条、939条)、所得税法(59条)、家事事件手続法 別表第一 e-Gov法令検索

