実家の土地を国に引き取ってもらえるか|申請5,997件に対し帰属3,119件。建物があると申請すらできない
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売れない。貸せない。もらってくれる人もいない。それでも固定資産税は毎年かかります。相続放棄をしても、実家だけを手放すことはできません(相続放棄したら実家はどうなるか|放棄の申述は年32万3,524件。住んでいた人は、引き渡すまで管理が残る)。その出口として2023年4月に始まったのが、相続土地国庫帰属制度です。国に土地を引き取ってもらう制度ですが、使う前に知っておくことが3つあります。建物があると申請すらできないこと、審査手数料は返ってこないこと、そして標準の処理期間が8か月かかること。この記事は、法務省の統計と案内から、実額と通過率を整理します。
- 令和8年8月31日現在で申請5,997件、帰属3,119件。却下85件・不承認100件と門前払いは少ないのですが、取下げが1,139件あります
- 取下げのうち586件は「有効活用の見込みが生じた」ため。自治体が活用を決めた、隣の土地の所有者から引き受けの申出があった、という例が挙げられています
- 負担金は宅地・田畑・その他が面積にかかわらず20万円。ただし市街化区域の宅地は面積に応じた算定で、100平方メートルなら54万8,000円です

売る方法そのものは相続した実家の売り方|売りに出した空き家の7割は1年後も空き家のまま。仲介と買取を手取りで比べるに、放置したときに何が起きるかは相続した空き家を放置すると|「管理不全空家」の判断基準と、年に何をすればいいかに書きました。
相続で取得した土地だけが対象
まず、使える人が限られています。
申請できるのは、相続または相続人に対する遺贈で土地を取得した人です。売買など相続以外の原因で自分が取得した土地は対象外で、法人も基本的に使えません。
共有地でも申請できますが、共有者の全員が共同して申請する必要があります。兄弟の共有にしてしまう前の分け方は実家しかない相続ほど、分け方で止まる|家庭裁判所で決まった遺産分割の35%は遺産1,000万円以下。7割で代償金に書きました。一部が売買で持分を取得していても、相続で取得した共有者がいれば申請できます。ただし、誰か1人でも同意しなければ申請できません。法務省のQ&Aも「共有者のうち誰かの同意が得られない場合には、その土地について承認申請をすることはできません」としています。
制度が始まる前に相続した土地も対象です。法務省は「数十年前に相続した土地についても、本制度の対象となります」と明記しています。名義が祖父のままという土地でも、相続で取得したという筋道が通れば入口には立てます。
申請先は、土地がある都道府県の法務局・地方法務局の本局です。支局や出張所では受け付けません。相談だけなら、土地が遠方の場合は近くの本局でもできます。
田畑がある場合は、この制度を調べる前に農業委員会への届出が要ります(実家に田畑が付いてきたら|農業委員会への届出が別に要る。怠ると10万円以下の過料)。

建物があると、申請できない
これが最初の関門です。
却下事由(法第2条第3項)に「建物がある土地」が入っています。法務省のQ&Aも、建物は取り壊したうえで申請するのが原則だとしています。
つまり、実家の家屋を先に解体する必要があります。解体費用は制度の外なので、負担金とは別にかかります。費用の見方は家の解体費用は坪数で決まらない|見積書で見るべき7項目にまとめました。
却下事由はほかに4つあります。
- 担保権や使用収益権が設定されている土地(抵当権が残っている土地など)
- 他人の利用が予定されている土地
- 土壌汚染されている土地
- 境界が明らかでない土地・所有権の存否や範囲について争いがある土地
承認が下りない理由(不承認事由・法第5条第1項)も5つあります。
- 一定の勾配・高さの崖があって、管理に過分な費用・労力がかかる土地
- 土地の管理・処分を阻害する工作物、車両、樹木などの有体物が地上にある土地
- 除去しなければ管理・処分ができない有体物が地下にある土地
- 隣接する土地の所有者等との争訟によらなければ管理・処分ができない土地
- その他、通常の管理・処分に過分な費用・労力がかかる土地
注意:「更地にすれば通る」わけではありません。不承認の理由でいちばん多いのは、地上に工作物・車両・樹木などがある土地で46件。物置、古い井戸、放置した車、伸びた樹木が残っていると止まります。解体のときに、建物以外も片付けておいてください。
実際の通過率:申請5,997件、帰属3,119件
法務省が統計を公表しています。令和8年8月31日現在の速報値です。
- 申請件数… 5,997件(田・畑2,335件、宅地2,091件、山林902件、その他669件)
- 帰属件数… 3,119件(宅地1,164件、農用地989件、森林203件、その他763件)
- 却下… 85件
- 不承認… 100件
- 取下げ… 1,139件
却下と不承認を足しても185件で、申請の約3%です。「厳しくて通らない制度」という印象とは違います。
ただし、取下げが1,139件あります。その内訳が公表されていて、ここが読みどころです。
- 586件… 有効活用の見込みが生じた
- 405件… 却下・不承認であることが判明した
- 148件… その他
405件は、実質的な不合格です。審査の過程で通らないと分かり、自分から引いた。却下・不承認185件と合わせると590件で、申請の約10%になります。
もう一つの586件が、この記事でいちばん伝えたいところです。
取下げの586件は「引き取り手が見つかった」
法務省は、有効活用の見込みが生じて取り下げられた例を3つ挙げています。
- 自治体や国の機関による土地の有効活用が決定した
- 隣接地所有者から土地の引き受けの申出があった
- 農業委員会の調整等により農地として活用される見込みとなった
申請した土地の約1割で、国に渡す前に引き取り手が現れています。
注意:申請したから引き取り手が現れた、と決めつけることはできません。法務省は例を挙げているだけで、きっかけが何だったかまでは公表していません。ただ、事実として「国に渡す一歩手前で別の道が見つかった土地が586件ある」ことは言えます。
実務として言えるのは、順番です。国庫帰属は8か月かかり、手数料も負担金も戻りません。その前に、隣の土地の所有者と、市町村の空き家・空き地の窓口には声をかけておく価値があります(空き家バンクの使い方は空き家バンクで実家は売れるか|空き家を解消した世帯で登録していたのは3.3%。全国版の成約は累計約2万7,000件)。隣地の所有者にとっては、自分の土地が広がる話です。
負担金は宅地20万円から。市街化区域だけ別
承認されたら、負担金を納めます。10年分の管理費用にあたる額で、納めるのは一度だけです。

種目ごとに決まっています。
- 宅地… 面積にかかわらず20万円。ただし都市計画法の市街化区域または用途地域が指定されている地域内の宅地は、面積に応じた算定
- 田、畑… 面積にかかわらず20万円。ただし市街化区域・用途地域内の農地、農用地区域内の農地、土地改良事業等の施行区域内の農地は、面積に応じた算定
- 森林… 面積に応じた算定
- その他(雑種地、原野など)… 面積にかかわらず20万円
面積で計算する場合の実額です。
- 市街化区域の宅地100平方メートル… 2,720円×100+27万6,000円=54万8,000円
- 市街化区域の宅地200平方メートル… 2,450円×200+30万3,000円=79万3,000円
- 農用地区域の農地500平方メートル… 850円×500+29万8,000円=72万3,000円
- 森林3,000平方メートル… 17円×3,000+24万8,000円=29万9,000円
田舎の実家の土地なら、市街化区域の外にあることが多い。その場合、宅地は面積に関係なく20万円です。逆に、市街化区域の中にある土地は、狭くても50万円を超えます。
隣り合う2筆以上を1筆分の負担金にまとめる特例があります(政令第6条)。ただし、隣接地が同じ種目である場合に限られます。市街化区域外の宅地同士ならまとめられますが、宅地と森林はまとめられません。申し出られるのは、申請書を出してから承認されるまでの間です。
手数料1筆1万4,000円は、通らなくても返らない
費用は負担金だけではありません。
審査手数料は土地1筆あたり1万4,000円。申請書に収入印紙を貼って納めます。取り下げても、却下されても、不承認になっても返還されません。
だから、出す前に法務局に相談する意味があります。全国の法務局・地方法務局が制度の相談を受け付けています。却下理由の上位が「添付書類の提出がなかった」37件、「境界が明らかでない」23件であることを考えると、事前の相談で防げるものが多い。
添付書類も確かめておいてください。
- 土地の位置及び範囲を明らかにする図面
- 隣接する土地との境界点を明らかにする写真
- 土地の形状を明らかにする写真
- 申請者の印鑑証明書
- (登記名義人と申請者が違う場合)相続があったことを証する戸籍など
境界点の写真が要るということは、隣との境界が分かっていることが前提です。分からなければ、先に隣地の所有者と確認する作業が入ります。
標準処理期間は8か月
法務省のQ&Aは「標準処理期間は8か月とされていますが、事案によっては標準処理期間を超える場合もあります」としています。
その間も固定資産税はかかります。そして、負担金の通知が届いたら、到達した日の翌日から30日以内に納めなければなりません。納入告知書を添えて日本銀行(本店・代理店・歳入代理店)へ納付します。法務局に現金を持参して払うことはできません。
期限内に納めないと、承認が失効します。失効したら、同じ土地について最初から申請し直しです。手数料も払い直しになります。
注意:審査中に申請者が亡くなった場合も手続きは続けられます。土地を相続した人が、相続等があった日から60日以内に法務局へ申し出れば継続できます。申出がなければ却下されます。親が高齢の場合は、この期限を家族で共有しておいてください。なお、申請者本人が認知症などで判断できない状態になると、別の問題が出ます(親が認知症だと実家は売れないのか|成年後見の申立ては年4万3,159件。売却が終わっても後見は続く)。
使う前に比べておくこと
国庫帰属は、出口のひとつにすぎません。同じ土地について、先に確かめられることがあります。
- 売れるかどうか… 値が付かなくても、買取なら引き取られることがあります(相続した実家の売り方|売りに出した空き家の7割は1年後も空き家のまま。仲介と買取を手取りで比べる)
- 隣の土地の所有者… 取下げ586件の例に挙がっています。自分の土地が広がる話なので、条件が合うことがあります
- 貸せるかどうか… 建物がまだ使えるなら、定期借家で貸す道もあります(実家を貸すなら定期借家で|借り手を募集した空き家のうち、1年あまりで貸せたのは約5軒に1軒)
- 市町村の窓口… 空き家バンクや、公共用途での活用。取下げの例に「自治体や国の機関による土地の有効活用が決定した」が挙がっています
- 相続放棄… ただし他の財産も一切受け取れません。期限は相続を知ってから3か月です
- そのまま持つ… 固定資産税と管理の手間が続きます。放置すると管理不全空家等と判断されることがあります(相続した空き家を放置すると|「管理不全空家」の判断基準と、年に何をすればいいか)
解体費用+手数料+負担金の合計と、持ち続けた場合の固定資産税を並べてみてください。更地にすると住宅用地特例が外れて固定資産税は上がります。「いくらで縁が切れるか」を数字にすると、家族で話しやすくなります。
共有のままだと、建物を壊すところで全員の同意が必要になります(共有の実家は壊すのに全員の同意|貸すのは過半数、直すのは1人。相続から10年で使える手が増える)。
実家の土地、売れないときの出口を調べたので共有します。
- 2023年から「相続土地国庫帰属制度」があります。国に土地を引き取ってもらう制度です
- 令和8年8月末までに申請5,997件、実際に国のものになったのが3,119件。却下85件・不承認100件なので、門前払いは多くありません
- ただし建物があると申請できません。先に解体が要ります。物置や放置した車、伸びた木が残っていても不承認になります
- お金は、審査手数料が1筆1万4,000円(通らなくても返らない)と、負担金が原則20万円。市街化区域の宅地だと100平方メートルで54万8,000円です
- 審査は標準で8か月かかります。その前に、隣の土地の所有者と市役所に声をかけるほうが早いかもしれません(取下げ1,139件のうち586件は引き取り手が見つかったためでした)
- どうするか、一度話せますか
よくある質問
できません。却下事由に「建物がある土地」が入っており、法務省のQ&Aも建物は取り壊したうえで申請するのが原則としています。解体費用は制度の外なので、負担金とは別にかかります。更地にすれば必ず通るわけでもありません。不承認の理由で最も多いのは、物置や車両、樹木などの有体物が地上にある土地で46件でした。建物だけでなく、敷地に残っている物も片付けてから申請してください。
審査手数料が土地1筆あたり1万4,000円、負担金が原則20万円です。手数料は申請書に収入印紙を貼って納め、取下げ・却下・不承認でも返還されません。負担金は宅地・田畑・その他が面積にかかわらず20万円ですが、市街化区域や用途地域の中にある宅地は面積で計算し、100平方メートルで54万8,000円、200平方メートルで79万3,000円になります。森林も面積で計算し、3,000平方メートルなら29万9,000円です。これとは別に、建物の解体費用がかかります。
却下と不承認だけを見ると少ない。令和8年8月31日現在、申請5,997件に対し却下85件・不承認100件で、合わせて約3%です。ただし取下げが1,139件あり、そのうち405件は「却下・不承認であることが判明した」ことによるものでした。これを足すと590件、申請の約10%が通らなかった計算になります。帰属したのは3,119件です。審査中のものがあるので、単純な通過率とは違います。
標準処理期間は8か月です。法務省のQ&Aは「事案によっては標準処理期間を超える場合もあります」としています。承認されると負担金の通知が届き、到達した日の翌日から30日以内に納付します。納付した時点で所有権が国に移ります。期限内に納めないと承認が失効し、同じ土地について申請し直しになります。手数料も払い直しです。
共有者の全員が共同して申請すれば使えます。一部の共有者が売買で持分を取得していても、相続で取得した共有者がいれば申請できます。ただし、誰か1人でも同意しなければ申請できません。法務省のQ&Aも「共有者のうち誰かの同意が得られない場合には、その土地について承認申請をすることはできません」としています。先に、誰が何分の何を持っているかを登記で確かめてください。
対象です。法務省は、制度開始(令和5年4月27日)より前に相続等によって取得した土地も対象で、「数十年前に相続した土地についても、本制度の対象となります」と明記しています。ただし、申請には相続があったことを証する書類が要ります。登記名義人が祖父のままなら、出生から死亡までの戸籍や遺産分割協議書をそろえることになります。相続登記そのものの期限(2027年3月31日)と、親名義の不動産を洗い出す証明書は相続登記の期限は2027年3月31日|過料が来るのは「一部だけ登記した」とき。親の不動産を洗い出す証明書が始まったにまとめました。却下理由の上位は「添付書類の提出がなかった」37件なので、ここで止まる人が多い。
あります。法務省の統計では、取下げ1,139件のうち586件が「有効活用の見込みが生じた」ためでした。挙げられている例は、自治体や国の機関による有効活用の決定、隣接地所有者からの引き受けの申出、農業委員会の調整による農地活用です。国庫帰属は8か月かかり、手数料も負担金も戻りません。その前に、隣の土地の所有者と市町村の窓口に声をかけておく価値があります。
出典
- 法務省「相続土地国庫帰属制度の統計」(令和8年9月16日更新、数値は令和8年8月31日現在の速報値)
- 法務省「相続土地国庫帰属制度の概要」
- 法務省「相続土地国庫帰属制度の負担金」
- 法務省「相続土地国庫帰属制度に関するQ&A」
- 相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律(令和3年法律第25号)第2条第3項、第5条第1項、第10条第1項

