家をどうするか

借地権付きの実家を売る|地主の承諾と、3つの売り先

杉野 一樹

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借地の実家を売ろうとして不動産会社に相談すると、たいてい最初に「地主さんの承諾は取れそうですか」と聞かれます。この一言でつまずく人が多いところです。

この記事で分かること
  • 借地権には地上権と賃借権の2種類があります。どちらかで、地主の承諾が要るかどうかが変わります
  • 承諾が得られないときは、裁判所が承諾に代わる許可を出せます。借地借家法19条のしくみです
  • 売り先は3つ。第三者、地主、そして地主と一緒に第三者へ売る方法があります
実家じまいの5段階。お墓、仏壇・位牌、片付け、家をどうするか、解体。この記事は家をどうするか
この記事は④家をどうするかの、借地を売る話です。

借地の実家を壊す前に確かめることは借地の実家をどうするか|壊す前に確かめることにまとめました。この記事は、その先の「売る」の話です。

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借地権には2種類ある

借地権という一つの権利があるわけではありません。

借地借家法の第2条第1号は、借地権を「建物の所有を目的とする地上権又は土地の賃借権」と定義しています。地上権と賃借権、どちらかということです。

  • 地上権… 民法第265条は「地上権者は、他人の土地において工作物又は竹木を所有するため、その土地を使用する権利を有する」と定めています。土地そのものに対する権利です
  • 賃借権… 土地を貸してもらう契約上の権利です。相手(地主)に対して「使わせてください」と言える権利で、土地そのものに対する権利ではありません

この違いが、売るときにそのまま効いてきます。

なお、土地を貸している側の呼び名も条文にあります。借地借家法第2条第3号は、借地権設定者を「借地権者に対して借地権を設定している者」としています。日常の言い方でいう地主です。

どちらなのかは、契約書と登記事項証明書で分かります。地上権は土地の登記記録の権利部(乙区)に「地上権設定」として記録されているのが普通です。契約書の表題が「土地賃貸借契約書」なら賃借権です。まずここを確かめてください。

賃借権なら、地主の承諾が要る

民法第612条第1項は、こう定めています。「賃借人は、賃貸人の承諾を得なければ、その賃借権を譲り渡し、又は賃借物を転貸することができない」

主語が「賃借人」です。地上権には、これにあたる制限がありません。だから地上権なら、地主の承諾なしに譲渡できるとされています。

同条第2項は、違反した場合に賃貸人が契約の解除をすることができるとしています。無断で売ると、買った人ごと土地から出ていくことになりかねません。だから不動産会社は最初に承諾の話をします。

注意:承諾料に公的な相場はありません。金額は話し合いで決まります。何に対する費用なのか、いつ誰が払うのかを、契約前に書面で決めてください。

借地の実家を売る前に確かめる3つの質問の判断チャート
3つの質問で、進む道が分かれます。

承諾が得られないときは、裁判所に許可を求められる

断られたら終わり、ではありません。

借地借家法の第19条第1項は、借地権者が賃借権の目的である土地の上の建物を第三者に譲渡しようとする場合において、その第三者が賃借権を取得しても借地権設定者に不利となるおそれがないにもかかわらず承諾しないときは、裁判所が借地権者の申立てにより、承諾に代わる許可を与えることができると定めています。

条文が「賃借権の目的である土地」と書いていることに注目してください。この制度は賃借権を前提にしています。地上権なら、そもそも承諾が要らないので、この申立ても要りません。

同項の後段は、当事者間の利益の衡平を図るため必要があるときは、その許可を財産上の給付に係らしめることができるとしています。承諾料にあたるお金を払うことを条件に許可を出す、ということです。

第2項は、裁判所が判断するときに賃借権の残存期間、借地に関する従前の経過、賃借権の譲渡を必要とする事情その他一切の事情を考慮しなければならないとしています。第6項は、特に必要がないと認める場合を除き、鑑定委員会の意見を聴かなければならないとしています。

時間はかかります。東京地方裁判所の民事第22部は、手続の流れをこう示しています。

借地非訟事件の手続の流れと期間の目安
東京地裁が示している目安です。地域や事案で変わります。

同部が示す各段階の期間を単純に足すと、申立てから最後の審問期日まででおよそ4か月半です。申立ての手数料は、借地権が設定された土地の価格をもとに算定され、譲渡許可の申立てでは固定資産評価額の2分の1が基準とされています。郵便切手は相手方1名で6,000円分です。

売却の日程を組むときは、この期間を先に見込んでおいてください。買主が待てる期間を超えると、話が流れます。

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地主が「では自分が買う」と言えるしくみがある

第19条第3項を知らないまま申し立てると、想定と違う結末になります。

同項は、許可の申立てがあった場合において、裁判所が定める期間内に借地権設定者が自ら建物の譲渡及び賃借権の譲渡を受ける旨の申立てをしたときは、裁判所は相当の対価を定めて、これを命ずることができるとしています。地主の介入権と呼ばれるものです。

つまり、裁判所に許可を求めたら、買主が地主に変わることがあります。値段は裁判所が「相当の対価」として定めます。

これは悪いことばかりではありません。地主が買い取ってくれるなら、承諾の問題は消えます。ただし、自分で見つけてきた買主に売るつもりだったなら、話が変わります。申し立てる前に、その可能性を織り込んでおいてください。

なお第21条は、第17条から第19条までの規定に反する特約で借地権者に不利なものは無効としています。契約書に「譲渡は一切認めない」と書かれていても、そのまま有効とは限りません。

売り先は3つある

借地権付きの建物には、売り先が3通りあります。

  1. 第三者に売る… いちばん普通の道です。賃借権なら地主の承諾が要ります。承諾料の負担を売主と買主のどちらが持つかを、先に決めます
  2. 地主に買ってもらう… 地主にとっては、借地権が消えて土地が自分の自由になります。話が早く、承諾の問題も起きません。ただし相手は一人なので、価格の交渉相手も一人です
  3. 地主と一緒に、第三者へ売る… 借地権と底地を同時に一つの土地として売る方法です。買主から見れば普通の土地になるので、買い手の幅が広がります

3番目は、地主にとっても利点があります。底地だけでは買い手が限られるためです。「一緒に売りませんか」と持ちかける相談のしかたがあることを、知っておいてください。

値段の考え方

借地権にも、底地にも、財産としての値段があります。

国税庁は貸宅地(底地)の評価を「自用地としての価額-自用地としての価額×借地権割合」としています。裏返すと、借地権の価額が「自用地としての価額×借地権割合」にあたります。借地権割合は「財産評価基準書 路線価図・評価倍率表」で確認でき、借地権の取引慣行がないと認められる地域では20パーセントとして計算するとされています。

注意:これは相続税や贈与税を計算するときの評価方法であって、売買価格そのものではありません。実際の取引額は、残りの期間、地代の額、地主との関係、建物の状態で動きます。「路線価に借地権割合を掛けた額で売れる」ではありません。

ただし、考え方の目安にはなります。借地権と底地を足すと自用地の評価に戻る、という関係です。売り先の3番目(地主と一緒に売る)が成り立つ理由が、ここにあります。

相続税の全体の期限は相続した実家を売ると税金はいくら?3,000万円控除の条件と期限にまとめています。

契約の種類で、結論が変わる

契約書の表題と条項を見てください。借地借家法は、更新のある借地権のほかに、更新のない借地権を定めています。

  • 普通の借地権… 存続期間は30年(第3条)。更新後は10年、最初の更新だけ20年(第4条)。更新があり、契約が終わるときは建物買取請求権(第13条)があります
  • 一般定期借地権(第22条)… 存続期間50年以上。契約の更新も、建物の築造による期間の延長も、建物買取請求もしないと定められます
  • 事業用定期借地権(第23条)… 専ら事業用。30年以上50年未満、または10年以上30年未満。同条第3項により公正証書によってしなければならないとされています
  • 建物譲渡特約付借地権(第24条)… 設定後30年以上を経過した日に、建物を地主に相当の対価で譲渡すると定めるものです
  • 一時使用目的の借地権(第25条)… 臨時設備の設置などが明らかな場合。存続期間や買取請求の規定が適用されません

実家の借地は、多くが住宅用の普通の借地権です。ただし定期借地権だった場合、残りの期間がそのまま値段になります。期間が満了すれば土地を返すことになり、更新も建物買取請求もありません。契約書が見つからないなら、地主に写しを求めてください。

なお、平成4年8月1日より前から続いている契約は、旧法(借地法)の借地権として扱われる部分があります。更新・朽廃・建て替えの扱いが変わります(平成4年より前に借りた土地は「旧法借地権」|新法と何が違い、何に気をつけるか)。判断が分かれるところなので、契約日を確かめて専門家に見せてください。

売る前にそろえるもの

書類が先です。

  1. 土地賃貸借契約書(または地上権設定契約書)。表題と契約日、期間、譲渡に関する条項を見ます
  2. 建物の登記事項証明書。名義が親のままなら先に相続登記をします。借地権の裏づけは登記された建物です
  3. 土地の登記事項証明書。地上権かどうか、抵当権が付いていないかを見ます
  4. 固定資産税・都市計画税の課税明細書。裁判所に申し立てる場合、手数料の算定に固定資産評価額を使います
  5. 地代の支払い記録。滞納は契約解除の理由になります。相続の話がまとまらない間も止めないでください

建物の中を空にするのは、売り方が決まってからで構いません。残置物の扱いは実家の残置物は誰が片づけるのか|解体業者に任せられない理由にまとめました。解体は最後です。壊すと借地権の裏づけを失いかねません(家の解体費用は坪数で決まらない|見積書で見るべき7項目)。

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借地の実家を売るときのこと、調べたので共有します。

  • まず、契約書と登記で「地上権」か「賃借権」かを確かめます
  • 賃借権なら、売るには地主さんの承諾が要ります(民法612条)
  • 承諾がもらえないときは裁判所に許可を求められますが、そのとき地主さんが「自分が買う」と申し立てることもできます(借地借家法19条)
  • 売り先は、第三者・地主さん・地主さんと一緒に第三者へ、の3つです。解体は最後です
  • 地主さんに話す前に、一度相談させてください

よくある質問

よくある質問①

借地権設定者とは誰のことですか

借地借家法第2条第3号で「借地権者に対して借地権を設定している者」と定められています。土地を貸している側、つまり地主です。借りて建物を持っている側は「借地権者」(同条第2号)と呼ばれます。契約書や裁判所の書類ではこの言い方が使われます。

よくある質問②

地上権と賃借権は、結局どこが違うのですか

売るときに地主の承諾が要るかどうかが、いちばん大きな違いです。民法第612条は「賃借人は、賃貸人の承諾を得なければ、その賃借権を譲り渡し」できないと定めていますが、地上権にはこれにあたる制限がありません。借地借家法第19条の許可の制度も、条文が「賃借権の目的である土地」と書いているとおり賃借権を前提にしています。どちらかは登記事項証明書で確かめられます。

よくある質問③

地主に買い取ってもらうことはできますか

話し合いで売ることはできます。また、裁判所に譲渡の許可を申し立てた場合には、第19条第3項により地主のほうから「自分が譲渡を受ける」と申し立てることができ、裁判所が相当の対価を定めて命じることがあります。ただし、こちらから申し立てて必ず買い取らせられる制度ではありません。まずは地主に相談してください。

よくある質問④

借地権付きの家でも3,000万円の特別控除は使えますか

使える場合があります。国税庁は、空き家の特例の対象となる「被相続人居住用家屋の敷地等」を「相続の開始の直前において被相続人居住用家屋の敷地の用に供されていた土地またはその土地の上に存する権利」としています。借地権は「土地の上に存する権利」にあたります。ただし、昭和56年5月31日以前の建築であること、売却代金が1億円以下であることなど、ほかの要件も全部満たす必要があります。判断は税務署か税理士に確かめてください。

よくある質問⑤

買主が住宅ローンを組めないと言われました

借地権付きの建物では、金融機関が地主の承諾書を求めることがあります。相続した人が持っているのは建物と借地権で、土地は地主のものだからです。譲渡の承諾とは別に、「借地上の建物に抵当権を設定することへの承諾」が要ると言われる場合があります。買主が決まってからでは間に合わないことがあるので、売り出す前に不動産会社へ、この点を確認しておいてください。

出典

  • 借地借家法(平成3年法律第90号)第2条、第3条、第4条、第13条、第19条、第20条、第21条、第22条、第23条、第24条、第25条
  • 民法(明治29年法律第89号)第265条、第612条
  • 国税庁「No.4613 貸宅地の評価」(令和8年4月1日現在法令等)
  • 国税庁「No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」
  • 東京地方裁判所 民事第22部「借地非訟事件手続の流れ」「費用」
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