家をどうするか

実家しかない相続ほど、分け方で止まる|家庭裁判所で決まった遺産分割の35%は遺産1,000万円以下。7割で代償金

杉野 一樹

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親が遺した財産が、ほとんど実家だけ。こういう相続は「分けるほどの財産はない」と思われがちです。でも家は、そのままでは兄弟で分けられません。最高裁判所の司法統計では、家庭裁判所で決まった遺産分割の35%が、遺産1,000万円以下の事件でした。この記事は、統計と条文から、実家の分け方と、話し合いが止まったときの流れを整理します。

この記事で分かること
  • 令和7年に家庭裁判所の調停や審判で決まった遺産分割8,321件のうち、遺産1,000万円以下が2,938件(35.3%)、5,000万円以下までで77.6%でした
  • 全体の69.4%で、誰かが代償金を払う定めがされていました。分けられない実家を1人が取り、お金で調整する形が主流です
  • 1,000万円以下の事件でも29.0%は1年を超え、4分の3に弁護士が付いていました
実家じまいの5段階。お墓、仏壇・位牌、片付け、家をどうするか、解体。この記事は家をどうするか
この記事は④家をどうするかの、兄弟で分ける話です。

名義を変える相続登記の期限は相続登記の期限は2027年3月31日|過料が来るのは「一部だけ登記した」とき。親の不動産を洗い出す証明書が始まったに、話し合いに要る戸籍の集め方は親の戸籍の集め方|2024年からは最寄りの役所で出生まで請求できる。法定相続情報一覧図にすれば写しは無料で使い回せるに書きました。

裁判所で決まった遺産分割の35%は、遺産1,000万円以下

最高裁判所の「令和7年 司法統計年報 家事編」第52表は、家庭裁判所の調停や審判で遺産分割が決まった件数を、遺産の価額別に数えています(「分割をしない」とされたものを除く)。

  • 1,000万円以下… 2,938件(35.3%)
  • 5,000万円以下… 3,519件(42.3%)
  • 1億円以下… 944件(11.3%)
  • 5億円以下… 541件(6.5%)
  • 5億円を超える… 60件(0.7%)
  • 算定不能・不詳… 319件(3.8%)

合計は8,321件です。5,000万円以下までで77.6%を占めます。家庭裁判所まで行く相続の多くは、資産家の話ではありません。

地方の実家と、いくらかの預金。こうした相続でも、話し合いがまとまらずに裁判所に持ち込まれています。

7割で「代償金」が払われている

同じ第52表には、もう一つ数字があります。代償金を支払う旨の定めがされた件数です。

8,321件のうち5,778件、69.4%で、誰かがほかの相続人に代償金を払う定めがされていました。1,000万円以下の事件でも59.7%、5,000万円以下では74.1%です。

家は切り分けられません。そこで、1人が実家を相続し、ほかの相続人にはお金を払って釣り合いを取る。これが代償分割です。家事事件手続法195条は、家庭裁判所が特別の事情があると認めるときに、この方法(共同相続人の1人に、ほかの相続人への債務を負担させる方法)で分割できると定めています。

つまり、実家の分け方の話し合いは、お金の話になります。話し合いの前にそろえておきたいのは2つです。

  • 実家がいくらで売れるか… 代償金の額の土台になります
  • 実家を取る人が、代償金をどう用意するか… 預金か、借入れか、分割払いか

注意:代償金を払う側に原資がなければ、この形は成り立ちません。その場合は売って代金を分ける換価分割か、話し合いを続けることになります。

実家をどう分けるかを決める3つの質問の判断チャート。換価分割、代償分割、協議書、調停
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代償金の額を話し合うには、実家がいくらで売れるかが要ります。査定を先に取っておくと、兄弟で同じ数字を見ながら話せます。

分け方は3つ。共有で先送りするのは避けたい

実家の分け方は、大きく次の3つです。

  • 代償分割… 1人が相続し、ほかの相続人に代償金を払う
  • 換価分割… 売って、代金を分ける。家事事件手続法194条は、審判のために必要なときは、家庭裁判所が遺産を競売や任意売却で換価するよう命じられるとしています
  • 共有… 兄弟の持分で共有にする

共有は、分け方を決めないまま先に送る形になりがちです。民法の共有の規定を見ると、その先が見えます。

各共有者は、いつでも共有物の分割を請求できます(民法256条)。話し合いがまとまらなければ裁判所に分割を求められ、現物で分けられないときなどは、裁判所が競売を命ずることもあります(民法258条3項)。また、持分を超えて使う共有者は、ほかの共有者に対価を払う義務を負います(民法249条2項)。兄弟の1人が実家に住み続けると、この問題が出てきます。

共有者が亡くなれば、その持分はさらに次の世代に分かれます。共有にするなら、いつ・どうやって売るかまで決めておいてください。

仏壇・位牌・お墓は、この分け方の対象外です。民法897条で継ぐ人が別に決まります(仏壇とお墓は遺産分割の対象外|誰が継ぐかは民法897条で決まる。相続放棄をしても継げます)。

共有にしたあと何ができて何ができないかは共有の実家は壊すのに全員の同意|貸すのは過半数、直すのは1人。相続から10年で使える手が増えるにまとめました。壊すには全員の同意が要ります。

話し合いが止まったら、家庭裁判所の調停へ

民法907条は、相続人はいつでも協議で遺産を分割でき、協議が調わないときは家庭裁判所に分割を請求できるとしています。遺言があれば、まずその内容を確かめます。家で見つけた遺言書は開けずに検認を受けてください(親の遺言書は、見つけても開けない|家庭裁判所の検認は年2万3,523件。法務局に預けた遺言は800円で有無を調べられる)。

裁判所の案内によると、遺産分割の調停は次のようなものです。

  • 家庭裁判所で、当事者から事情を聞き、解決案を示したり助言したりしながら合意を目指す
  • 申立先は、相手方のうちの一人の住所地の家庭裁判所か、当事者が合意で決めた家庭裁判所
  • 費用は、被相続人1人につき収入印紙1,200円分と郵便切手
  • 調停が成立しなければ、自動的に審判に移る
遺産分割の進み方。協議、調停、審判の3段階と費用
協議がまとまらなければ調停、それでも不成立なら審判です。

小さな遺産でも、1年を超えることがある

調停や審判に入ると、時間がかかります。司法統計の第53表は、遺産分割が調停成立や審判で決まった8,399件について、かかった期間を数えています。

1年を超えたのは3,490件、41.6%でした。遺産1,000万円以下の2,967件に限っても、1年を超えたのは861件(29.0%)、6か月を超えたのは1,843件(62.1%)です。

弁護士が代理人に付いた事件は全体の83.9%、1,000万円以下でも76.6%でした。財産が少なくても、手間と費用は小さくなりません。

期限にも気をつけてください。相続税の申告が要る家では、実家の土地の評価が8割減る小規模宅地等の特例は、原則として申告期限(10か月)までに分割されていないと使えません(実家の土地の相続税が8割減る「小規模宅地等の特例」|別居の子は「家なき子」の6要件。10か月の申告期限まで売らない)。

また民法904条の3は、相続開始から10年を過ぎたあとの遺産分割では、原則として特別受益や寄与分の規定を使わないとしています。親の介護をした、生前に援助を受けた、という事情を分け方に反映させたいなら、10年より前に動く必要があります。

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実家の分け方のこと、調べたので共有します。

  • 家庭裁判所で決まった遺産分割の35%は、遺産1,000万円以下でした。財産が少なくても話し合いは止まるようです
  • 全体の7割は、1人が家を取って、ほかの相続人にお金(代償金)を払う形で決まっています
  • 共有にしておくと、あとで誰かが分割を求めたときに、裁判所が競売を命じることもあるそうです
  • 話し合いの前に、実家がいくらで売れるかを調べておきたいです
  • 誰か実家を持ち続けたい人がいるか、一度話せますか

よくある質問

よくある質問①

実家しか財産がなくても、揉めることはありますか

あります。最高裁判所の令和7年の司法統計では、家庭裁判所の調停や審判で決まった遺産分割8,321件のうち、2,938件(35.3%)が遺産1,000万円以下でした。5,000万円以下まで含めると77.6%です。家は切り分けられないので、財産が少なくても分け方で話し合いが止まることがあります。

よくある質問②

代償分割とは何ですか

1人が実家を相続し、ほかの相続人に代償金を払って釣り合いを取る分け方です。家事事件手続法195条は、家庭裁判所が特別の事情があると認めるとき、この方法で分割できると定めています。司法統計では、裁判所で決まった遺産分割の69.4%に代償金を支払う定めがありました。払う側に原資があるかが前提です。

よくある質問③

兄弟で共有にしておくのはだめですか

先送りになりやすいので、決めておくことが必要です。各共有者はいつでも分割を請求でき(民法256条)、話し合いがまとまらなければ裁判所が競売を命ずることもあります(民法258条)。持分を超えて使う共有者は対価を払う義務も負います。共有にするなら、いつ・どうやって売るかまで決めてください。

よくある質問④

遺産分割の調停には、いくらかかりますか

被相続人1人につき収入印紙1,200円分と、郵便切手です。裁判所の案内による費用です。申立先は、相手方のうちの一人の住所地の家庭裁判所か、当事者が合意で決めた家庭裁判所です。弁護士に依頼すれば別に費用がかかります。調停が成立しなければ、自動的に審判に移ります。

よくある質問⑤

調停や審判は、どれくらいかかりますか

4割は1年を超えています。司法統計の令和7年分では、調停成立や審判で決まった8,399件のうち3,490件(41.6%)が1年超でした。遺産1,000万円以下でも29.0%が1年を超え、62.1%が6か月を超えています。相続税の特例の期限などと重なるなら、早めに動いてください。

よくある質問⑥

何年も分けずに放っておくと、どうなりますか

10年を過ぎると、特別受益や寄与分を主張しにくくなります。民法904条の3は、相続開始から10年を過ぎた遺産分割には、原則として特別受益や寄与分の規定を使わないとしています。介護の貢献などを分け方に反映させたいなら、10年より前に家庭裁判所に請求するなどの手当てが要ります。

出典

  • 最高裁判所「令和7年 司法統計年報 3 家事編」第52表・第53表(令和8年6月)
  • 裁判所「遺産分割調停」
  • 民法(898条、904条の3、906条、907条、908条、249条、251条、256条、258条)、家事事件手続法(194条、195条)e-Gov法令検索
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