親が認知症だと実家は売れないのか|成年後見の申立ては年4万3,159件。売却が終わっても後見は続く
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実家を売ろう、あるいは解体しようと動き出したところで止まる。いちばん多い理由が、親の判断能力です。名義は親のまま、親は施設にいて、契約の意味を理解できない。このとき、実家の売買契約は結べません。解決策として出てくるのが成年後見ですが、これは「家を売るための手続き」ではありません。一度始めると、本人が亡くなるまで続きます。この記事は、最高裁判所の統計と裁判所の案内から、数字で整理します。
- 成年後見の申立ては令和7年に4万3,159件。開始原因の61.3%が認知症です。ただし不動産の処分を動機に挙げたのは36.3%で4番目にとどまります
- 後見人に選ばれるのは親族16.4%だけ。83.6%は司法書士・弁護士・社会福祉士などの親族以外です
- 居住用不動産は、売却だけでなく建物の取り壊しにも家庭裁判所の許可が要ります。しかも「いま住んでいない家」も居住用に含まれます

売り方そのものは相続した実家の売り方|売りに出した空き家の7割は1年後も空き家のまま。仲介と買取を手取りで比べるに、解体の費用は家の解体費用は坪数で決まらない|見積書で見るべき7項目に書きました。
契約できるかどうかは、名義ではなく判断能力
実家の名義が親であること自体は、問題になりません。問題になるのは、親が契約の意味を理解できるかどうかです。認知症に備えて先に子へ贈与しておく方法もありますが、税金は相続よりずっと重くなります(実家を生前に子の名義にするといくらかかるか|贈与は登録免許税2%と不動産取得税。相続なら0.4%で取得税なし)。
売買契約は、当事者が内容を理解して意思を示す必要があります。理解できない状態で結んだ契約は、後から無効を主張されうるものになります。だから不動産会社も司法書士も、本人の意思確認ができない取引を進めません。
「子が代わりにサインする」ことはできません。親から委任状をもらっていても、その委任状を作った時点で親が理解できていなければ、同じことです。
だから順番はこうなります。
- 親がまだ理解できるなら、親本人が契約する(子は手伝うだけ)
- 理解できないなら、家庭裁判所に成年後見等を申し立てる
- 後見人がついたあと、居住用不動産なら家庭裁判所の処分許可をとる
- そのうえで売却・解体を進める
3番があることを知らずに動くと、契約直前で止まります。

申立ては年4万3,159件、開始原因の61.3%が認知症
最高裁判所事務総局家庭局が、毎年の件数を公表しています。令和7年(2025年)1月から12月までの数字です。
- 成年後見関係事件の申立ては合計4万3,159件(前年4万1,841件、前年比約3.2%増)
- 内訳は後見開始2万9,233件、保佐開始9,743件、補助開始3,302件、任意後見監督人選任881件
- 認容で終局したのは約95.1%
開始原因は、認知症が61.3%で最も多い。次いで知的障害9.6%、統合失調症9.3%です。
本人の年齢も出ています。女性は80歳以上が63.1%、男性は80歳以上が34.5%・70歳代が28.1%。65歳以上が、男性の71.3%、女性の85.8%を占めます。
制度を使っている人は、令和7年12月末で25万9,901人です。内訳は成年後見18万828人、保佐5万8,162人、補助1万8,078人、任意後見2,833人。任意後見が極端に少ないことに注目してください。後で書きます。
注意:認知症の人はもっと多い。厚生労働省の認知症施策推進基本計画(令和6年12月)は、2022年時点で認知症約443万人、軽度認知障害(MCI)約559万人と推計しています。合わせて1,000万人を超え、高齢者の約3.6人に1人です。2040年には認知症約584万人、MCI約613万人になる見込みとされています。つまり、後見を使っているのは認知症の人のごく一部です。
「不動産の処分」は動機の4番目、36.3%
何のために申し立てているのかも、統計に出ています。令和7年に終局した4万2,674件が母数で、1件に複数の動機があります。
- 預貯金等の管理・解約… 3万9,871件(93.4%)
- 身上保護… 3万1,655件(74.2%)
- 介護保険契約… 1万9,502件(45.7%)
- 不動産の処分… 1万5,502件(36.3%)
- 相続手続… 1万909件(25.6%)
- 保険金受取… 7,578件(17.8%)
- 訴訟手続等… 2,613件(6.1%)
不動産の処分は4番目です。3件に1件が挙げていますが、そのほとんどは預貯金の管理と同時に挙げています。単独で「家を売るためだけ」という申立ては、この統計からは読み取れません。
ここが、この記事でいちばん伝えたいところです。成年後見は、本人の財産と暮らしを丸ごと管理する制度です。売却が終わっても後見は終わりません。本人が亡くなるか、判断能力が回復するまで続きます。

後見人の83.6%は親族以外が選ばれている
「自分が後見人になればいい」と考える人が多いのですが、統計は違う結果を示しています。
令和7年に選任された成年後見人等は4万2,732件分。その内訳です。
- 親族… 7,014件(16.4%)
- 親族以外… 3万5,718件(83.6%)
- 司法書士… 1万1,966件
- 弁護士… 8,903件
- 社会福祉士… 7,280件
- 市民後見人… 390件
そもそも、親族を候補者として申立書に書いた事件は約19.7%しかありません。残りの8割は、最初から専門職を想定して申し立てています。
専門職が就けば、報酬が発生します。報酬額は家庭裁判所が決め、本人の財産から支払われます。これが本人が亡くなるまで続きます。
注意:「報酬がいくらか」は、この統計には出てきません。家庭裁判所が事案ごとに決めるためです。申立ての前に、家庭裁判所の後見センターや、相談する専門職に目安を聞いてください。実家を売って得た代金も本人の財産なので、そこから支払われます。
居住用不動産は、売却も取り壊しも家裁の許可が要る
後見人がついても、それだけでは家を処分できません。
裁判所は、成年後見人(保佐人・補助人)が本人の居住用不動産を処分するには、家庭裁判所の許可が必要だと案内しています。
「居住用」の範囲が広いことに注意してください。裁判所の説明では、現に住居として使用している場合に限らず、本人が現在は病院や施設に入所しているため居住していないが、将来居住する可能性がある場合、または入所前に居住していた場合も含まれます。
つまり、親が施設に入っていても、その前に住んでいた実家は「居住用不動産」です。
許可が要る行為も、売却だけではありません。裁判所は次を挙げています。
- 売却
- 抵当権の設定
- 賃貸借契約の締結・解除(実家を貸す場合も許可が要ります。貸し方は実家を貸すなら定期借家で|借り手を募集した空き家のうち、1年あまりで貸せたのは約5軒に1軒)
- 建物の取り壊し
建物の取り壊しが入っています。「売れないから解体して更地にする」という実家じまいの定番も、許可の対象です。解体の見積もりを取る前に、この手続きがあることを知っておいてください。
申立ての中身です。
- 申立てができるのは… 成年後見人、保佐人、補助人(保佐人・補助人は、不動産を処分する代理権が付与されている場合に限る)
- 申立先… 後見開始(保佐開始・補助開始)の審判をした家庭裁判所
- 費用… 収入印紙800円分。郵便料は裁判所ごとに異なります
- 必要書類… 申立書、処分の必要性を証する資料(契約書の写し、評価証明書、査定書)、登記事項証明書など
注意:査定書や契約書の写しが要るということは、話を進めてから許可を申し立てる流れになります。買主が決まってから許可が下りないと、契約が壊れます。不動産会社には、後見が付いていることと許可が必要なことを最初に伝えてください。
手続きにかかる期間は、2か月以内が71.1%
「時間がかかりそう」という不安については、数字があります。
令和7年に終局した4万2,674件の審理期間です。
- 1か月以内… 37.9%
- 1か月超え2か月以内… 33.2%(2か月以内で71.1%)
- 2か月超え3か月以内… 16.2%
- 3か月超え4か月以内… 6.5%(4か月以内で93.8%)
- 4か月超え… 約6.2%
思ったより早い、と感じる人が多いはずです。
鑑定が要るのも例外的です。鑑定を実施したのは全体の約3.4%だけ。費用は5万円以下が43.7%、10万円以下が85.8%でした。
ただし、これは「後見が始まるまで」の期間です。そのあと居住用不動産の処分許可の申立てがあり、さらに売却や解体の実務が続きます。実家を手放し終わるまでの期間ではありません。
申し立てる前に、任意後見を確かめる
親がまだ理解できる状態なら、選べる道があります。
任意後見は、本人が元気なうちに「判断できなくなったらこの人に頼む」と公正証書で決めておく制度です。判断能力が落ちたときに家庭裁判所へ任意後見監督人の選任を申し立てて、動き出します。
利用者は令和7年12月末で2,833人。成年後見18万828人と比べると、64分の1です。ほとんど使われていません。
法定後見との違いは、誰が後見人になるかを本人が決められる点です。法定後見では83.6%が親族以外でしたが、任意後見なら本人が選んだ人になります。
ただし、任意後見は「これから備える人」のための制度です。すでに親が理解できない状態なら使えません。その場合は法定後見しかありません。
注意:親が元気なうちに家を売ってしまう、という選択もあります。住まなくなった実家なら、親本人が契約できるうちに動くほうが、手続きも費用も軽い。売った代金の扱いや税金は相続した実家を売ると税金はいくら?3,000万円控除の条件と期限とは別の計算になるので、税理士に確かめてください。
後見を使わずに進められること
家の処分はできなくても、止まらない作業があります。
- 家の中の片付け… 親の所有物を勝手に処分することはできませんが、家族の合意のうえで、明らかなごみを片付けることまで止められているわけではありません。貴重品と書類を先に分けてください(東京で実家を片付けるなら|家庭のごみを集めるのは「区」。23区の臨時ごみ、ごみ屋敷の条例と支援、業者に頼む前に聞くこと)
- 空き家の管理… 放置すると管理不全空家等と判断され、固定資産税の住宅用地特例が外れることがあります(相続した空き家を放置すると|「管理不全空家」の判断基準と、年に何をすればいいか)
- お墓の確認… 改葬の手続きは、祭祀を主宰する人が進められます(墓じまいの手続きはどこへ出す?改葬許可の流れと必要書類)
- 登記の確認… 名義が祖父のままなら、先に相続登記が要ります。施行前の相続は2027年3月31日が期限です(相続登記の期限は2027年3月31日|過料が来るのは「一部だけ登記した」とき。親の不動産を洗い出す証明書が始まった)
- 土地の出口を調べる… 売れない土地なら、国に引き取ってもらう制度があります(実家の土地を国に引き取ってもらえるか|申請5,997件に対し帰属3,119件。建物があると申請すらできない)
どれも、売却の前にやっておくと後が早くなります。
実家の名義と親の状態のこと、調べたので共有します。
- 親が契約の意味を理解できない状態だと、実家の売買契約は結べません。子が代わりにサインすることもできません
- その場合は家庭裁判所に成年後見を申し立てます。令和7年の申立ては4万3,159件で、開始原因の61.3%が認知症でした
- 注意点が2つあります。後見人に選ばれるのは親族が16.4%で、83.6%は司法書士や弁護士などの専門職です。そして後見は売却が終わっても続き、本人が亡くなるまで報酬がかかります
- 居住用不動産は、売却だけでなく解体にも家庭裁判所の許可が要ります。施設に入る前に住んでいた家も「居住用」です
- 親がまだ理解できるうちなら、本人が契約するほうが早い。近いうちに一度話せますか
よくある質問
売れません。売買契約は当事者が内容を理解して意思を示す必要があり、理解できない状態で結んだ契約は後から無効を主張されうるものになります。委任状があっても、それを作った時点で親が理解できていなければ同じです。不動産会社や司法書士は本人の意思確認ができない取引を進めないので、契約の直前で止まります。家庭裁判所に成年後見等を申し立てて、後見人を通じて進めることになります。
令和7年に終局した4万2,674件のうち、2か月以内が71.1%、4か月以内が93.8%でした。1か月以内も37.9%あります。鑑定を実施したのは全体の約3.4%だけで、費用は10万円以下が85.8%です。ただしこれは後見が始まるまでの期間です。居住用不動産を売るには、そのあとに処分許可の申立てがあり、さらに売却の実務が続きます。実家を手放し終わるまでの期間ではありません。
なれることもありますが、統計では少数です。令和7年に選任された4万2,732件のうち、親族が選ばれたのは7,014件(16.4%)。83.6%は親族以外で、内訳は司法書士1万1,966件、弁護士8,903件、社会福祉士7,280件です。そもそも親族を候補者として申立書に書いた事件が約19.7%しかありません。専門職が就けば報酬が発生し、本人の財産から支払われます。金額は家庭裁判所が事案ごとに決めます。
終わりません。成年後見は本人の財産と暮らしを管理する制度で、本人が亡くなるか判断能力が回復するまで続きます。「家を売るための手続き」ではありません。統計でも、不動産の処分を動機に挙げた申立ては36.3%で4番目にとどまり、最も多いのは預貯金等の管理・解約(93.4%)でした。申し立てる前に、売却後も続く報酬と報告の負担を含めて考えてください。
居住用不動産なら要ります。裁判所は、許可が必要な処分として売却、抵当権の設定、賃貸借契約の締結・解除とともに建物の取り壊しを挙げています。しかも「居住用」の範囲は広く、親が現在は病院や施設に入所していて住んでいなくても、将来居住する可能性がある場合や、入所前に居住していた場合は含まれます。申立ての費用は収入印紙800円分で、申立先は後見開始の審判をした家庭裁判所です。
任意後見があります。本人が元気なうちに「判断できなくなったらこの人に頼む」と公正証書で決めておき、判断能力が落ちたときに家庭裁判所へ任意後見監督人の選任を申し立てます。法定後見と違い、誰に頼むかを本人が決められます。ただし利用者は令和7年12月末で2,833人と、成年後見18万828人の64分の1にとどまります。もう一つは、住まなくなった実家を親本人が契約できるうちに売ることです。手続きも費用も軽くなります。
厚生労働省の認知症施策推進基本計画(令和6年12月)は、2022年時点で認知症約443万人、軽度認知障害(MCI)約559万人と推計しています。合わせて1,000万人を超え、高齢者の約3.6人に1人にあたります。2040年には認知症約584万人、MCI約613万人になる見込みとされています。一方、成年後見制度の利用者は令和7年12月末で25万9,901人です。制度を使っている人は、認知症の人のごく一部にとどまります。
出典
- 最高裁判所事務総局家庭局「成年後見関係事件の概況―令和7年1月〜12月―」(令和8年3月)
- 裁判所「成年被後見人(被保佐人、被補助人)の居住用不動産の処分についての許可」
- 厚生労働省「認知症施策推進基本計画」(令和6年12月)

