生前整理は片付けから始めない|親が決められるうちに残す3つの書類
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親がまだ元気なうちに実家を片づけておきたい。その気持ちは正しいのですが、始める場所が違います。物を減らすより先に、残しておかないと取り返しがつかないものがあります。
- 生前整理で先に残すのは、遺言書・任意後見契約・財産の一覧の3つです。どれも本人が判断できるうちにしか作れません
- 自筆証書遺言は法務局に預けられます。1通3,900円で、家庭裁判所の検認が要らなくなります
- 家の中の物は本人の財産です。勝手に捨てず、書類と一覧を一緒に作るところから始めます

実家じまい全体の流れと、先に確かめる期限は実家じまいは何から始める?5つの段階と、かかるお金の全体像にまとめています。この記事は、その全部の手前の話です。
生前整理は、物より先に「決めごと」を残す作業
遺品整理と生前整理の違いは、本人がいるかどうかだけです。葬儀社を1社決めておくことも生前整理の一部です。喪主の87.1%が葬儀社を比較せずに決めている現実と、費用の相場は葬儀費用の相場はいくらか|喪主2,000人の実額、「家族葬50万円」が120万円になる仕組み、自治体の規格葬儀に書きました。
亡くなったあとの片付けでは、遺骨の行き先も、家の名義も、預金の在りかも、残された人が推測して決めます。生前整理は、それを本人に決めてもらえる唯一の機会です。物を減らすのは、そのあとでできます。
ところが、決めごとは本人の判断能力があるうちにしか残せません。遺言も、任意後見契約も、本人の意思で作るものだからです。実家の名義を生前に子へ移す贈与は、税金の面で相続より不利になりがちです(実家を生前に子の名義にするといくらかかるか|贈与は登録免許税2%と不動産取得税。相続なら0.4%で取得税なし)。片付けに何か月もかけている間に、その機会が閉じることがあります。
だからこの記事は、物ではなく書類から始めます。残すものは3つです。
- 遺言書
- 任意後見契約
- 財産と契約の一覧

残すもの① 遺言書:自筆なら法務局に預けられる
遺言書は、自分で書けます。民法の第968条第1項は、自筆証書遺言の要件を「遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない」と定めています。
財産目録だけは、手書きでなくてかまいません。同条第2項により、遺言書と一体のものとして添付する目録は自書を要しません。パソコンで作った一覧や、通帳のコピー、登記事項証明書を付けられます。ただし、その目録の毎葉に署名と押印が要ります。
書いた遺言書は、法務局に預けられます。法務局における遺言書の保管等に関する法律にもとづく制度で、令和2年7月10日に始まりました。
- 本人が法務局へ出向きます。同法第4条第6項は、保管の申請を「遺言書保管所に自ら出頭して行わなければならない」と定めています。代理はできません
- 申請先は、遺言者の住所地・本籍地、または所有する不動産の所在地を管轄する遺言書保管所です(同条第3項)
- 手数料は1通3,900円です
預ける最大の利点は、検認が要らなくなることです。通常、自筆証書遺言は相続開始後に家庭裁判所の検認を受けなければなりません(民法第1004条第1項)。保管所に保管されている遺言書には、この規定が適用されません(保管法第11条)。
注意:預けるには、用紙の決まりがあります。法務省の案内では、A4サイズ、片面のみ、上5ミリ・下10ミリ・左20ミリ・右5ミリの余白、各ページにページ番号、ホチキスで綴じない、消えないボールペン、日付は「吉日」不可、氏名は戸籍どおり。余白に1文字でもはみ出すと預かってもらえません。書く前に法務省の様式例を見てください。
注意:本人が窓口まで行ける体力があるうちに、です。病床では預けられません。元気なうちに動く理由が、ここにもあります。
亡くなったあと、相続人は法務局で遺言書情報証明書(1通1,400円)の交付を受けられます。閲覧はモニターで1回1,400円、原本で1回1,700円です。預けてあるかどうかは、相続人が1通800円で確かめられます(親の遺言書は、見つけても開けない|家庭裁判所の検認は年2万3,523件。法務局に預けた遺言は800円で有無を調べられる)。
公正証書遺言との違い
公証役場で作る公正証書遺言も選べます。
公正証書遺言は、はじめから検認が要りません(民法第1004条第2項)。手数料は、遺言の目的である財産の価額で決まります。日本公証人連合会が公証人手数料令の表を公開しています。
- 100万円を超え200万円以下… 7,000円
- 500万円を超え1,000万円以下… 20,000円
- 1,000万円を超え3,000万円以下… 26,000円
- 3,000万円を超え5,000万円以下… 33,000円
財産を受け取る人ごとに算出して合算し、全体が1億円以下なら13,000円の「遺言加算」が加わります。本人が公証役場へ行けない場合、公証人が自宅や施設へ出張できますが、日当(1日2万円、4時間以内なら1万円)と交通費がかかります。相談は無料です。
どちらを選ぶかは、書ける状態かどうかで決めてください。自分で全文を書けるなら法務局の保管制度が安く、手が動きにくい、内容が複雑、争いが予想されるなら公正証書です。
残すもの② 任意後見契約:判断できなくなる前にしか結べない
遺言は亡くなったあとの話です。その前に、判断できなくなる期間があります。
任意後見契約に関する法律の第2条は、任意後見契約を「精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分な状況における自己の生活、療養看護及び財産の管理に関する事務」を受任者に委託し、代理権を付与する委任契約と定義しています。将来、判断できなくなったときに、誰に何を任せるかを、いま決めておく契約です。結ばないまま判断できなくなると、家庭裁判所に法定後見を申し立てることになり、後見人の83.6%は親族以外が選ばれています(親が認知症だと実家は売れないのか|成年後見の申立ては年4万3,159件。売却が終わっても後見は続く)。
決まりが3つあります。
- 公正証書で結びます。同法第3条は「法務省令で定める様式の公正証書によってしなければならない」と定めています
- 効力が出るのは、家庭裁判所が任意後見監督人を選任したときです(第4条第1項)。契約を結んだだけでは始まりません。本人の判断能力が不十分になってから、本人・配偶者・四親等内の親族・受任者が家庭裁判所に請求します
- 本人の判断能力があるうちにしか結べません。契約なので、本人の意思が要ります
費用は、日本公証人連合会がこう示しています。公正証書の作成手数料が1契約13,000円、法務局に納める収入印紙代2,600円、登記嘱託手数料1,600円、書留郵便料、正本・謄本の作成手数料(電磁的記録なら1通2,500円、書面なら1枚300円)。本人が病床にある場合は病床執務加算6,500円と、日当・交通費が加わります。
注意:「まだ早い」と思っているうちが、結べる期間です。判断能力が不十分になったあとは、家庭裁判所が後見人を選ぶ法定後見しか使えず、誰が付くかを本人が選べません。
残すもの③ 財産と契約の一覧:本人しか知らないことを書き出す
スマホの中のネット銀行やサブスクも、この一覧に入れてください。本人が亡くなると、家族にはロックが開けられません(親のスマホは初期化しない|デジタル遺品は「契約先」さえ分かれば止められる。証券口座の調査は結果まで約2か月)。
注意:医療費の領収書と年金の源泉徴収票も、一覧と一緒にしまっておいてください。亡くなったあとの準確定申告で、税金が戻る手がかりになります(親の準確定申告は要るか|年金だけなら多くは不要。ただし医療費が多かった年は戻ることがあり、戻ったお金は相続財産になる)。
これが、いちばん手間がかからず、いちばん効きます。
亡くなったあと、口座は凍結されます。どこの銀行に口座があるか分からないと、払戻しの請求そのものができません。保険も、加入していることを家族が知らなければ請求されないまま終わります。
書き出すのは、この6つです。
- 預金… 金融機関名、支店、種類。残高は要りません
- 保険と年金… 会社名と証券番号。年金の種類
- 不動産… 登記名義が誰か。祖父母名義のままなら、相続登記が先です
- 土地が借地かどうか… 借地なら契約書の場所。壊すと権利の裏づけを失いかねません(借地の実家をどうするか|壊す前に確かめること)
- 墓と菩提寺… 墓地の場所、管理者、宗旨。本人しか知らないことが最も多い項目です(「永代供養」で後悔する前に|宗旨と、菩提寺との関係を確かめる)
- 借金と保証… ローン、連帯保証。相続放棄の判断に直結します
残高や暗証番号は書かなくてかまいません。必要なのは「どこにあるか」です。金額は、亡くなったあとに相続人が調べられます。

注意:借入れの有無は、親本人なら信用情報機関に開示を請求して確かめられます。亡くなったあとは相続人が請求できますが、3か月の期限に追われます(親の借金を調べる方法|信用情報3機関の開示は合計6,080円。ただし「載っていない」は「借金がない」ではない)。
注意:親に仕送りしているなら、振込の記録は残しておいてください。亡くなったあと、別居の子が未支給年金を請求するときの「生計同一」の証明になります(親の未支給年金は、別居の子でも受け取れる|決め手は「生計同一」の申立書。仕送りの通帳や施設の領収書が証明になる)。
物の片付けは、本人の同意が要る
家の中の物は、本人の財産です。子が勝手に捨てることはできません。本人が「まだ使う」と言うものは、使うものです。
だから、片付けは本人と一緒に、少しずつです。順番はこうです。
- 書類と貴重品の置き場所を、本人に教えてもらう。捨てるのではなく、場所を知る
- 明らかに使わないもの(期限切れの薬、壊れた家電)から、本人に確認して出す
- 大型の家具や量の多いものは、業者に頼む段階になってから
量が多く、自分たちで運び出せない場合は、片付けの業者に頼めます。家庭から出るものは一般廃棄物なので、実家のある市町村の一般廃棄物処理業の許可を持つ業者に頼んでください。確かめ方は遺品整理の業者はどう選ぶ?ランキングより先に見る許可と書面にまとめました。費用の考え方は遺品整理の費用はいくら?相場より先に見るべき3つの内訳と同じで、人が動く時間が費用になります。すでに床が見えない状態なら、実家がごみ屋敷になっていたら|業者より先に、自治体に相談する理由のほうが先です。
「生前整理アドバイザー」は民間資格
「資格を持った人に頼みたい」と考える人がいます。知っておいてほしいことがあります。
生前整理アドバイザーは、一般社団法人生前整理普及協会が認定する民間資格です。国や自治体が認定する公的資格ではありません。講座を受けて取得するもので、2級・準1級・1級に分かれています。
持っていることが悪いわけではありません。研修を受けている証にはなります。ただし、資格があっても、家庭の不用品を運んで処分するには一般廃棄物処理業の許可が別に要ります。資格と許可は別のものです。
注意:業者を選ぶときに見るのは、資格ではなく許可と書面です。「無料で回収します」と巡回するトラックには頼まないでください。環境省は、産業廃棄物処理業の許可や古物商の許可では家庭の不用品を回収できないと明記しています(実家の残置物は誰が片づけるのか|解体業者に任せられない理由)。不用品回収の業者の選び方は不用品回収の業者はどう選ぶ?|許可の確かめ方、相場の実額、「定額」「詰め放題」の落とし穴にまとめました。
進める順番
- 財産と契約の一覧を、本人と一緒に作る。残高は不要。場所と連絡先だけ
- 遺言書を書いてもらう。自筆なら法務局へ本人が預けに行く。書けないなら公正証書
- 任意後見契約を、公証役場で結ぶ。誰に任せるかは本人が決める
- 書類と貴重品の置き場所を教えてもらう
- 物の片付けは、本人の同意を取りながら少しずつ
- 量が多ければ、許可のある業者に見積もりを頼む
1〜3は本人の判断能力があるうちにしかできません。4〜6はあとからでもできます。順番を逆にしないでください。
親の生前整理のこと、調べたので共有します。
- 生前整理は、物より先に書類です
- 1つ目は遺言書です。自筆の遺言は法務局に3,900円で預けられて、検認が要らなくなります(本人が窓口に行きます)
- 2つ目は任意後見契約です。公正証書で作り、判断能力があるうちしか結べません(手数料13,000円+印紙・登記)
- 3つ目は、預金・保険・不動産・借地・お墓・借金の「場所」だけを書いた一覧です
- 家の中の物は親の財産なので、勝手に捨てないようにします
- 次に帰ったとき、この3つを親に切り出してみませんか
よくある質問
財産と契約の一覧からです。預金の金融機関名、保険の会社名、不動産の名義、借地かどうか、墓と菩提寺、借金の有無。残高は要りません。次に遺言書と任意後見契約。物の片付けはそのあとです。書類は本人の判断能力があるうちにしか作れないので、順番を逆にしないでください。
公的な相場統計はありません。遺品整理と同じで、人が動く時間が費用になります。量、搬出の条件(階段・道路幅)、処分費で決まります。確かめるのは金額より、実家のある市町村の一般廃棄物処理業の許可があるかどうかです。産業廃棄物処理業や古物商の許可では家庭の不用品を運べません。
捨てるのをやめて、場所を聞くことに変えてください。家の中の物は本人の財産で、本人が使うと言えば使うものです。通帳や権利証がどこにあるか、菩提寺はどこか、それを教えてもらうだけでも、亡くなったあとの手間が大きく減ります。片付けは、本人が納得したものから少しずつです。
家庭裁判所の検認が要らなくなります。自筆証書遺言は通常、相続開始後に検認を受ける必要がありますが(民法1004条1項)、法務局に保管された遺言書には適用されません(遺言書保管法11条)。手数料は1通3,900円で、本人が法務局へ出向きます。代理はできません。
誰が後見人になるかを、本人が選べるかどうかです。任意後見は、判断能力があるうちに本人が受任者を選んで公正証書で契約します。法定後見は、判断能力が不十分になったあとに家庭裁判所が後見人を選びます。任意後見は、結べる時期が限られます。「まだ早い」と思っているうちが、その時期です。
出典
- 民法(明治29年法律第89号)第968条、第1004条
- 法務局における遺言書の保管等に関する法律(平成30年法律第73号)第4条、第11条、第12条
- 法務省「自筆証書遺言書保管制度」(手数料・様式)
- 任意後見契約に関する法律(平成11年法律第150号)第2条、第3条、第4条
- 日本公証人連合会「任意後見契約公正証書を作成する費用」「公正証書遺言の作成手数料」(公証人手数料令)
- 一般社団法人生前整理普及協会「生前整理アドバイザー」

