相続放棄したら実家はどうなるか|放棄の申述は年32万3,524件。住んでいた人は、引き渡すまで管理が残る
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親に借金があった、実家に値段が付きそうにない。そうした理由で相続放棄を考える人は少なくありません。最高裁判所の司法統計では、2025年に家庭裁判所が受けた相続放棄の申述は32万3,524件でした。では、子が全員放棄したあと、実家はどうなるのか。放棄した人に、実家の管理は残るのか。この記事は、民法の条文と司法統計、裁判所の案内から整理します。
- 放棄した人は、初めから相続人でなかったことになります。実家は親の親、次に親の兄弟姉妹へと、次の順位の相続人に移ります
- 全員が放棄すると、家庭裁判所が選ぶ相続財産清算人が財産を片付け、残りは国庫に入ります。清算人の選任などの申立ては2025年に2万8,029件ありました
- ただし、放棄のときに実家を現に占有していた人は、次の相続人か清算人に引き渡すまで保存しなければなりません(民法940条)

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放棄は3か月以内、家庭裁判所へ
民法915条は、相続人は自分のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に、承認か放棄をしなければならないとしています。
裁判所の案内によると、相続放棄の申述は次のとおりです。
- 申述先… 亡くなった人の最後の住所地の家庭裁判所
- 費用… 申述する人1人につき収入印紙800円分と、郵便切手
- 主な書類… 亡くなった人の住民票の除票か戸籍の附票、申述する人の戸籍謄本、亡くなった人の死亡の記載がある戸籍など
- 3か月で決められないときは、家庭裁判所に期間の伸長を申し立てられる
最高裁判所の「令和7年 司法統計年報 家事編」第3表によると、2025年に新しく受けた相続放棄の申述は32万3,524件です。国税庁の資料では、令和6年に亡くなった人が160万5,378人でした。申述は相続人1人ごとに数えるので単純には比べられませんが、放棄はもう珍しい手続きではありません。
注意:放棄の前に、実家の物を売ったり捨てたりしないでください。民法921条は、相続人が相続財産の全部または一部を処分したときは、単純承認をしたものとみなすとしています。片付けた結果、放棄ができなくなるおそれがあります。
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葬儀のあとに健康保険から出る葬祭費は、亡くなった人の財産ではなく、喪主に出る給付です。相続放棄の手続き中でも申請できると案内している自治体があります(葬儀費用の補助金「葬祭費」は2万円から7万円|47都道府県の後期高齢者医療と、政令市・東京23区の国保を公式ページで比べた)。
放棄すると、実家は次の順位の相続人へ移る
民法939条は、相続の放棄をした人は、その相続に関しては初めから相続人とならなかったものとみなすとしています。
子が全員放棄すると、相続人は次の順位に移ります。民法889条によると、子がいない場合の順位は次のとおりです。
- 第2順位… 亡くなった人の父母や祖父母(直系尊属)
- 第3順位… 亡くなった人の兄弟姉妹(兄弟姉妹が亡くなっていれば、その子)
つまり、子が放棄すると、実家と借金の話は叔父・叔母やいとこに移ることがあります。放棄したことを知らせないままだと、次の相続人は、自分が相続人になったことを知らずに過ごすことになります。放棄を決めたら、次の順位の人に伝えておくのが親切です。

全員が放棄したら、相続財産清算人が片付ける
相続人が全員放棄して、相続人がいない状態になると、相続財産は法人になります(民法951条)。家庭裁判所は、利害関係人か検察官の請求で、相続財産清算人を選びます(民法952条)。清算人は借金などを清算し、残った財産は最後に国庫に入ります(民法959条)。
最高裁判所の司法統計(令和7年)では、相続財産清算人の選任などの申立ては、2025年に2万8,029件ありました。
裁判所の案内による、清算人の選任の申立ては次のとおりです。
- 申し立てられる人… 利害関係人(債権者など)か検察官
- 申立先… 亡くなった人の最後の住所地の家庭裁判所
- 費用… 収入印紙800円、郵便切手、官報公告料5,582円
- 予納金… 財産だけでは清算人の報酬を含む管理の費用が足りないおそれがあるときは、予納金が要ることがある
実家に値段が付かないと、清算の費用が財産でまかなえず、予納金が問題になります。誰も申し立てなければ、清算人は選ばれず、実家は空き家のまま残ります。
注意:放棄して相続人でなくなると、固定資産税の現所有者申告も要りません(親が亡くなった後の実家の固定資産税|払うのは相続人。登記が3か月で終わらないなら「現所有者申告」を出す)。
実家に住んでいた人には、管理が残る
放棄しても、実家の管理から完全に離れられない人がいます。
民法940条は、相続の放棄をした人は、放棄のときに相続財産を現に占有しているときは、相続人か相続財産清算人に引き渡すまでの間、自分の財産と同じ注意をもって、その財産を保存しなければならないとしています。
法務省の改正の概要資料によると、以前の条文では放棄した人の管理を続ける義務の要件や中身がはっきりせず、放棄したのに過剰な負担を強いられることがありました。2023年4月1日に施行された改正で、「放棄の時に現に占有している」財産について、引き渡すまで保存する義務だと明記されました。親と同居していた子や、鍵を持って出入りしていた子は、これにあたりうると考えられます。一方、実家を離れて暮らし、管理にも関わっていなかった子は、放棄すればこの保存の義務を負わない、という線引きです。

保存の義務がある人は、次の相続人か清算人に引き渡すまで、実家を傷めないように保つことになります。引き渡す相手がいないまま管理が長引きそうなら、どう手放すかを家庭裁判所か専門家に相談してください。管理の具体的な中身は相続した空き家を放置すると|「管理不全空家」の判断基準と、年に何をすればいいかに書きました。
放棄するかどうかは、借金の額と、実家に値段が付くかで決まります。査定は家を見てもらうだけで、売る契約ではありません。決める前に相場を知っておくと判断しやすくなります。
実家だけを放棄することはできない
「借金はいらないが、実家だけは欲しい」「預金はほしいが、実家はいらない」という選び方はできません。放棄は相続そのものをしないことで、民法939条のとおり、初めから相続人でなかったことになります。借金を財産の範囲までに限って実家を残したいなら、限定承認という道があります(借金があっても実家を残せる「限定承認」|放棄32万件に対し637件。相続人全員の同意と、実家を買い取るお金が要る)。
実家だけを手放したいなら、相続したうえで売るか、国に引き取ってもらう制度を検討することになります(実家の土地を国に引き取ってもらえるか|申請5,997件に対し帰属3,119件。建物があると申請すらできない)。
なお、相続放棄をしても仏壇やお墓は継げます。祭祀財産は相続財産ではないためです(仏壇とお墓は遺産分割の対象外|誰が継ぐかは民法897条で決まる。相続放棄をしても継げます)。
相続放棄と実家のこと、調べたので共有します。
- 放棄は、亡くなったのを知ってから3か月以内に家庭裁判所に申し立てます。1人800円です
- 子が全員放棄すると、実家や借金の話は、親の兄弟(叔父・叔母)などに移ります。放棄したら知らせたほうがいいです
- 全員が放棄すると、家庭裁判所が選ぶ清算人が片付けますが、申し立てる人がいないと実家は空き家のまま残ります
- 放棄したときに実家に住んでいた人は、次の人に引き渡すまで管理する義務が残るそうです
- 放棄する前に、実家の物を売ったり捨てたりしないでおいてもらえますか
よくある質問
次の順位の相続人に移ります。民法939条により、放棄した人は初めから相続人でなかったことになります。子が全員放棄すると、民法889条により、親の父母などの直系尊属、次に親の兄弟姉妹が相続人になります。全員が放棄すれば、家庭裁判所が選ぶ相続財産清算人が清算し、残った財産は国庫に入ります。
放棄のときに実家を現に占有していた人は、引き渡すまで保存の義務があります。民法940条は、相続人か相続財産清算人に引き渡すまで、自分の財産と同じ注意で保存するよう定めています。2023年4月1日の改正で、義務を負うのは現に占有している人に限られました。離れて暮らしていた子は、放棄すれば原則としてこの義務を負いません。
収入印紙800円、郵便切手、官報公告料5,582円に加えて、予納金が要ることがあります。裁判所の案内による費用です。財産だけでは清算人の報酬を含む管理の費用が足りないおそれがあるときに、予納金を求められます。申し立てられるのは債権者などの利害関係人か検察官です。2025年の申立ては2万8,029件でした。
できません。相続放棄は相続そのものをしない手続きで、預金や借金も含めて一切を受け継ぎません。実家だけを手放したいなら、相続したうえで売るか、相続土地国庫帰属制度などを検討します。国庫帰属は建物があると申請できないので、解体の費用も考える必要があります。
物を売ったり捨てたりするのは避けてください。民法921条は、相続人が相続財産の全部または一部を処分したときは単純承認をしたものとみなすとしています。ただし、保存行為は処分にあたらないとされています。何が保存で何が処分かの線引きに迷うなら、放棄を決める前に家庭裁判所か専門家に確かめてください。
出典
- 最高裁判所「令和7年 司法統計年報 3 家事編」第3表(令和8年6月)
- 裁判所「相続の放棄の申述」「相続財産清算人の選任」
- 国税庁「令和6年分 相続税の申告事績の概要」(令和7年12月)
- 法務省民事局「令和3年民法・不動産登記法改正、相続土地国庫帰属法の概要」
- 民法(887条、889条、915条、921条、939条、940条、951条、952条、959条)e-Gov法令検索

